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先日、広尾のとある会館で、深夜にわたり、経営シミュレーション(ビジネスゲーム、マネジメントゲーム)研修が行われました。 渋谷駅からは坂道が多く、たどりついたときは・・・疲れた。
参加者は社内の自主的に参加さ れた精鋭です。財務経理のプロ集団と戦略調達関係者が多いながらも、日頃とは違った視点で最後まで熱心に学習されました。 コースはEXCE-4、対象としては若い方々です。
スケジュールは、初日9時~21時(参加者は通い)、二日目も9時~18時、と非常に濃厚。ありがたかったのは、事前にテキストを少し読まれたり、私のサイトを訪問された方が過半もいた点です。
受動的な人は、ホームページの案内が来ていても、クリックすらしません。ワンクリックで、どんな研修か知ることができるIT時代なのですが・・・。 今回は、事務局をお願いした秘書の佐藤様からの案内が功を奏しました。そして、能動的な参加者に恵まれました。
2回目の株主総会と講評を終えて散会しましたが、その後、深夜に及ぶ懇親会という名の債権者&債務者会議に招かれました。ごちそうさまでした。 会費の代わりと言ってはなんですが、各社別にコメントを差し上げたいと思います。決して悪酔いしているわけではありませんが・・・
1.ハイテックジャパン㈱
利益は三番手、剰余金ベースは二位ですが、チャレンジャーでもニッチャーでもありません。経営資源の強みがどこにあるのか、その点が気がかりです。迷走のままに終わったのかも知れませんね。いわゆるフォロワー的な存在です。
初年度は熱病の如くR&D投資につぎ込みました。いきなりの3単位は、目をこすりました。おまけに、たった二つのセグメントへのチョウ過度な集中。だれが社長かと見たものです・・・。広宣もMax。 さらにはp-upの設備投資。 やりたいことはすぐにでもやるという、トップの性格でしょうか?
過度な集中から転換して、都市中心にやや広めにマーケットを捕えました。厚い広宣もあり、価格政策もまずまずで、販売数量はトップです。しかし、投資が過剰。先行投資とは言うものの、急ぎすぎるような費用の掛け方ですから損益がついてきません。
いち早く新製品開発に成功したものの、投入は翌年からです。
その新製品発売時は、賃上げ春闘と重なりました。満額回答は気前がいいのか世間知らずか・・・。しかしマーケットを広げたため、今までのような厚い広宣を打てません。値上げしたから、黒字とはいっても台数は伸びませんでした。他社との価格差は20万円ほど。
思ったほどの効果がないとみたか、R&Dを打ち切り。二回目を目指すことなく、他社に追いつかれ追い越されたのです。 ハイテクの社名はお飾りでした。ローテクジャパンに改名しましょうか?
最後は990の端数価格とセールス部隊(この点が来年度の強みになるかも)の多さで全国展開へと拡散しました。強いては関西で強みがあります。二年目は投資を抑制して収益優先に切り替えた結果、黒字計上となりました。 R&D一番乗りだけでなくマーケティングとの組み合わせが不可欠でしたね。
二年間でトップのカラーが好対照でした。初代は、短気(!)投資の成果を待ちきれずに、役員室で●●サイトに夢中だったとか・・・。二代目は、寡黙と思わせながら、株主総会では社長の座に執着するかのような独演会を続け、KY社長との印象を与えました・・・ (^o^;;
●各社の共通事項
拙速な設備投資は尋常ではありません。本来は現有キャパシティがフ
ル生産フル販売ならば、投資の決断は合理的です。 リスクをとりすぎですね。手堅いスタートをしたのは、手堅い人の会社だけでした。 また広宣
も予算枠いっぱいに投資する会社が多かったのは、消費財本家の習性なのでしょうか・・・ 2.大日本白間
いやー、お疲れさん。ほんとに苦しかったですね。
初年度は販売大不振からのスタート。よほどプロモーション会社が嫌いなのでしょうか・・・。値引きしてなんとか数を売った。そんな一年目でした。
苦しまぎれに、銀行株を全部売りに出したら、予想外のストップ安で資金繰りも狂いました。売却損320万のおまけつき。 弱り目にたたり目とはこのこと !!
経常76百万の赤字は、税効果があるから46百万に減りますが、将来の黒字転換がなければ、資本の半分を喰ったことになります。二年続いたらサイムチョーカ・・・。シャチョー、ヨニゲの準備ですよ・・・
特徴は何と言っても、伝統的に金を使わないこと。よく言えば堅実経営ですが、周りは、そんなに行儀のよい会社ばかりではありません。業界とは「生き馬の目を抜くところ」なり。
採用も、R&Dも合理化(2年間0)も広宣も教育も、とにかく投資を抑制です。設備投資や保守事業なんて夢の夢です。 「効果の分からないものに、カネを出せるか」と言っているような決算書でした。 ついでに「効果の分からない役員なんか雇えるか」、と言ったか知りませんが、一人辞めました。市場選択も凡庸ですが、なぜか一年目に市場調査650万計上です、使途と効果が不明でしたね。
結局、強みとなる経営資源(武器)の芽が出ませんでした。春闘は役員の人柄のせいか、温厚な回答。その後の、全国オール1の拡散戦略に至っては、やけっぱち?みたいでしたね・・・・
毎期毎期赤字のP/Lを見続けました。しかし苦節、7期目には、初の黒字計上。それを見た役員いわく、「もう死んでもいい」。次の8期は新製品発売です。こんなに慎重な会社が、ラブ社からOEMで50台も大量発注の賭けにでました。結果オーライの完売。めでたしめでたし・・・・と、思いきや 材料発注が手薄のままで、来期は元の赤字会社へ・・・・ それにしても、期末現金が76万円しかありませんよ。
かように投資を抑制しながら経営することは大事ですが、その場合は集中戦略に特化し、強者との戦いや広域戦を避けることです。市場を限定すれば、乏しい経営資源の薄さをカバーできます。実は、初年度からの黒字も可能です。 でもそれは短期業績主義のワナです。将来の業績(長期業績)を保証するものではありません。
それにしても、誰も「もっと投資をしましょう」と言えなかったのでしょうか?。不思議です。成熟し、出来上がった企業なら「財産管理人」のようなトップは適材ですが、成長期の企業では難しかったようですね・・・・。生産能力が乏しいため、マーケティングの再編成をするか、調達戦略に切り替えて拡大を狙うかが課題です。ラブ社との業務提携がカギとなるでしょうが、彼らは性格的に対極にいる人たちです・・・・。 ちなみに、かような会社が設備投資をする時が景気のピークです 。
3.アップアップ
売上二番、利益ダントツ。業界のリーダー企業といえましょう。 経常利益率の二桁のせは優良企業です。 ライバルのラブは自らコケました・・・・ 一年目の経常利益は -17千円ですから、まさに水面下すれすれ。これが社名の由来かと思いましたが、どうやら価格にあったようです。 高価格政策です。 安売り量販ではない会社がトップになった点では、「よい結果」と言えるでしょうね。
当社を一言でいえば、マーケティング優先の会社です。経営資源の強みは最大セールス部隊を擁すること。初めから定期採用をしています。市場の絞り込み、広宣を厚く打つ、だから高価格(低価格では自殺行為)。 顧客企業への金融支援として、回収率を緩めていたのも結果オーライでした(リスキーですが)。 徹底した低コスト化努力が当たり前というように体質化されていますから、二カ年とも高い利益率は当然の帰結ですね。
期を追うにつれて市場選択の絞り込みをしています。「一人何台」を指標にしているかもしれません。 6セグメントのうち4つで寡占的販売です。 きっとノルマのきつい会社ですが、安易に賃上げ妥協しないためか、退職者を定期採用でカバーしていました。
増産投資をしたのはシェアを獲りに行ったようですが、販売優先の会社ですから回転が効いています。徹底した合理化と習熟効果でキャパシティは182台まで上がりました。 ROEの27%は立派。その源は、高い利益率です。回転率は製造業ですから、これ以上は望めません。レバレッジもまずまず、むしろレバレッジに依存しないのが良いですね。(傘下のB社は自己資本が多すぎて、薄利・・100円で2円の儲け・・だからROEは数パーセントです。)
もうひとつ強みを上げれば、「計数管理能力の高さ」です。資金管理は毎期ピタッと合います。どこそこのドンブリ会社とは違います。 お見事なのは、固定費が過去6期間一定水準なこと。管理会計の教科書通りです。固定費の予算管理を徹底しているのでしょうか。
さて一点の曇りもないのでしょうか?。このままダントツなのでしょうか。
気がかりは、二つ。
まずは製販のバランスです。販売数はもっと高い数字が出ないと、工場の高い操業度が維持できません。在庫がたまりだしたら、危機の始まりかもしれません。 120-30台レベルのエリア戦略では限界です。つまり戦線を広げることに迫られるでしょう。 マーケティング>生産 という当社の成功方程式が、マーケティング<生産 へと変質していることに気がつくかです。
戦線の拡大は、なりふり構わないライバルとの局地戦が待っています。 多額の納税や初配当も良いのですが、まだまだ投資機会がたくさんあります。 戦線の拡大、R&D、保守センタ、戦略的な製品とエリアの提携・・・・。 税務署の優良納税表彰状など役員室のお飾りにすぎません。
もう一つは、役員陣に慢心がはびこることです。初代の大川氏は誰よりも早く会社にくる仕事の鬼でした。社長になってもダブルワーク状態でしたよ。 二代目は前社長が院政を敷く中で、必死に耐えた努力家です。そして三代目は、社長の椅子を誕生日プレゼントにゲットした幸運の女神・・・・。「お披露目パーティには何を着て行こうかしら」。なんて思っていたら、危機のハジマリですが・・・。見たかったなー小口さんの晴れ着姿、じゃなかった社長の勇姿を・・・↑
研修のはじめ、「競争とは相対的な力関係」とお話ししました。短気業績の会社、石橋に鉄の橋をかけて渡る会社、支払の文字を知らない会社、ミソもクソもいっしょの会社、よき友に恵まれました。
4.ラブ・マシーン
何と言う名前だろう。理念を聞けば「顧客への愛・・・」だそうですから、誤解を生みやすいのですが、
わずか二カ年の間に、天国と地獄を見ました。
たった一期の成果を見て、これが永遠に続くと勘違いしたのが、転落の始まりです。第二期には第二工場Aライン増設です。それを見て、「間違いだろう。正気じゃない・・・」と思いましたが、億面にも出せません。彼らの喜々として前途洋々たる顔を見たら、そんな事、言えないもん (@_@;;
案の定、第三期からはもらった手形はすぐに割引に出す自転車操業の始まりです。でもP/Lの一番上と一番下だけみて喜んでいましたね。 年度末には手形割引でも資金不足、株は成り行きで売却、そして短期資金の借り入れです。設備投資の資金を短期で借りたも同然ですから、どうせ返済不能になります。
次からはまともな金融機関から相手にされませんでした。 役員陣にはボー然とする人も現れ、自己資産を持たない若き社長は、手練手管の金貸しに実家を担保に取られました。親子関係までおかしくなります…
このままでは経営危機が表面化し、融資残高が焦げ付き不良債権になるのを恐れたメーンバンクが「経営再建」の美名のもとに、介入してきました。(三日研修ならもう少し様子みます)
まずは設備売却です。簿価9500万を4000万で売却し、売却損を計上しました。役員報酬も大幅カット。セールスマン並みの給料です。小永井氏などはOEMの売り専門ですから・・・・
問題はどさくさにまぎれて、ヤマ銀へ担保に差し出した設備を、断りなく売却したことです。担保の差し替えが必要です。そのために深夜の債権者会議が行われましたが、気配を察知した江尻氏の姿が見えません・・・他の四人の意見は「彼が背負え」です。健康診断書を持参願います。
今回は銀行支援が早すぎたかもしれません。過剰設備の売却で元の製販バランスに戻りましたので、なんとかやっていけそうです。 もともと首都圏は圧倒的な強みがあります。処理能力フル稼働の保守センターも金城湯池です(もう一基必要です)。 身に染みるように学んだのは「損益と収支の違い」でしたね。この経営シミュレーションならではの学習テーマです。
手遅れに近いときの再建案では、更なる資産売却、人員整理、配置転換、本社引っ越し、下請け、市場選択、業務提携申込、役員自主退職、金利減免などが議案になります。 ほっといてもよかったかな・・
「絶頂の時に危機が始まる」を見事に体験しました。難解な経営書を何冊も読むより、よく分かったとすれば、それは皆様の事象から概念化する抽出力が高いからです。一番学習になったとすれば、コース冥利に尽きます。
5.OHOTS
初年度は値段で勝負の年でした。二年目は販売が安定してきました。そして黒字で終えましたが、その源は第四期の成果のみです。主戦場となるセグメントを持たなかったのが悔やまれます。ハイテックや大日本と似ています。 資金繰りや販売数に一喜一憂していませんでしたか?
期末レポートをよくご覧ください。洗練された(自慢です)エリア別の限界利益や貢献利益分析のレポートは何を物語っていますか。何期も前から、「ここ掘れ、ワンワン」と叫んでいるではありませんか。主戦場はあったのです。そこへ目一杯、舵を切りましょう。不採算市場から手を引けば、すぐ黒字です・・・
ところで、台数をたくさん売っても経常利益が薄利であったのは、なぜでしょうか? 金融収支も多いのですが、何よりも湯水のごとくつぎ込んだ、売上の10%を超す広告宣伝費は過剰です。
それ以外には投資が多いわけでもないのに、金融費用が増える(手形割引)のは、資材調達が単価低下のみを狙った大量発注だからでしょうか?。ひょっとして、これが皆さんの「戦略調達」という手法ですか?。 必要な分だけ調達するというトヨタ方式にしないと、資金繰りが厳しくなります。50台分程度は削減できるでしょう。
R&Dで追いつく努力をしないと、今後も厳しい時代が続きます。最後の第四期には、R&Dや合理化投資を止めたり、回収率を0にしましたね。継続企業のシミュレーションとしてはおきて破りです。 見かけの決算を作ったの?、と言われても仕方ありませんよ。 「決算は作られる」をいみじくも体験したとすれば、その代償は、大日本白間の後塵を拝することかもしれませんぞ。
ホットどころか、尻に火が付いています !!
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三階の書は、「祥飛」と読みます。
では、皆様さようなら。 暑い夏になりますように。
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