満席の経営幹部研修(経営シミュレーション)
㈱東和コーポレーションの皆様、その節は大変お世話になりました。
今回は第三回目ですが、稀なる経営シミュレーション(ビジネスゲーム)研修となりました。現職の社長、専務、常務さん等、役員陣が名を連ねたからです。経営幹部研修そのものでした。
中堅企業では、経営幹部の方が研修の陣中見舞いに来ることはあっても、研修をじっくり見守ることは稀です(もちろん、社長さんが熱心にオブサーブされた事例はいくつかあります)。
もともと、経営シミュレーション(ビジネスゲーム)はアメリカで、経営幹部教育として作られたものです。トップマネジメント教育です。
今回は参加者としての参加です。意気込みが違います。ちなみにどうして参加されたのか分かりませんが・・・「おれも出たい。どんなものか様子を見てみるか。出たらどうですか。」のどれでしょうか・・・
人数は研修の限界値。36人は大変な数です。おかけで、久留米の本社内は、もぬけの殻状態(?)です。研修室が広いので、多人数でも、ゆとりはありましたので、その点は助かりました。
6社で6人編成で二日間(通い)、8サイクルを回すのは時間的には窮屈です。今回のコースは上級のシミュレーションコースですから、なおさら。 ビジネススクールの教材よりも難易度は高いものです。
皆さん、初日は慣れない数字に翻弄されて、お疲れでしたね。「これなら仕事の方が楽だ」と思われたでしょう。 二日目も目の回る多忙さとアップダウンの起伏に時間のたつのも忘れて熱心に受講されました。
さて、シミュレーションの経営を、少しこの場をお借りして振り返ってみましょう。頭の中がクールダウンしたところで、思い出しながら、お読みください。
1.大隈コーポレーション・・・呪縛の物語
スタートの役員人事が強烈でした。社長と大株主夫人の間に座る「社長」なんて、聞いたことがありません。大隈氏は借りてきた猫同然。 見ていて気の毒でした・・・・。経営目標はシンプルです。「東日本エリアでのトップシェア 30%」。この設定は目標とそこに至る戦略の重点を明示していますから、迷うことなく突き進むしかありません。そして、二カ年度のすぐれた業績につながりました。
それにしても、業界最低価格でのスタートをしました。「イインデスカ?社長(監査役)」、と思わず聞きたくなります。誰がゴーサインを出したの?。 追求すると、もめそうですからウヤムヤに。
他社にも影響していますよ。 TUKUSUやFTKYはその典型かも(どうやら行儀の悪い会社がいるみたいだ、じゃあ俺たちも下げよう・・・・で2期目に早くも100万割れへ)。
翌期は反省して値戻しをしました。市場選択は明確ですから、台数は順調なるも、損益度外視です。同じころ、対極にいたのはSSです。高価格帯を維持し、値段の勝負をしませんでした。
三期目になると、監査役が、この会社に見切りをつけたのか、もはや伝えるべきは伝えたとの思いからか、青い鳥を探しに転職を希望しました。それならばと、会長夫人も、「私の資本を上手に使ってくれる人はいないかしら」と旅に出ました。
質問。 二人の重役が抜けたことを、大隈氏はどう思っていたのでしょうか?
1. 断腸の思いだった。
2. 安堵の思いだった。
答えは写真のとおりかも。 彼は言いました「やめたければ辞めればいい」・・・嘘です。失礼
同社快進撃のきっかけは、いち早いR&D成功です。マーケティング戦略との整合性も取れて、二年目からの収穫期を迎えました。値戻しもできて、収益性が向上しました。 一度の成功に甘んずることなく、二回目へと挑戦もしました。しかしこのあたりからは、経営がやや変質しているのが見てとれます。会長夫人の後に派遣された、若手役員はゲームに興じるかのようです。カラダはすでに重役級です。線の細い新社長にはさぞかし重いと思います。まさしく、「当社」二代にわたる呪縛の物語です。
売上二番手、利益も二番手ですが、利益率は最高です。R&Dの二回目のモデル投入で高い利益率を実現しています。
さて三年目の青写真は描けているでしょうか?。 東日本とは言うものの、関東圏はSSの後塵を拝しています。なによりも生産規模で劣ります。 規模を追うのか、財務の健全性や収益率重視なのかが問われます。 主戦場においては、保守センターを建て、一層の収益力強化が不可欠です。 どうやら三代目のポンなら全面戦争の気配ですね・・・
2.㈱TAIYOU・・・果たして陽は?
堅実な会社です。R&Dやコストダウン努力、教育も継続的にコツコツやりました。都市中心のマーケティングをしました。設備投資の姿勢を見て分かるように、リスクが高いとみたようです。リスクを避けて堅実経営に徹したようです。 初代社長のコツコツやる温厚な人柄かもしれません。 しかし業績は追随しませんでした・・・(^o^;;
セールス部隊は増員なし。少ないセールス部隊を広く浅く攻めたようですから、市場選択が拡散気味です。全ブロックを標的にしたために広告宣伝費が重荷です。局地戦では勝てません。自社の主戦場を持たないと難しいのです。
規模を追わない経営は、特定ブロックへの集中戦略として結実するでしょう。その仕上げは保守センタ確立です。そのためには、1人当たりの販売台数という指標やエリア別の貢献利益などを加味するとよいですね。
当社の業績推移を見ていると、陽は昇り、また沈むを繰り返します。8期は105まで販売しても、損益トントン。BEP(損益分岐点)そのものです。どうやら西日のようですね。このまま沈んだままだったりして・・・
3.㈱TUKUSU・・・つくすつもりが、つかされた物語
そもそもの間違いは、ありえない決断。 フライングスタートの設備投資と販売の大不振。狂ったような安売り路線。割り引く手形も底をつき、初年度からの高利依存体質へ。
第二製造ラインをフル稼働するも、つみあがるのは在庫の山のみ。それを呆然と見る社長は金策に追われる日々。社内で受取手形をみた人はいません。
なぜなら客から回収した手形はその足で、金融機関で割引に回す日々。運転資金の枯渇を二度も短期借入に依存しました。 借入の社長の顔はひきつるも、他の役員は知らぬ顔。 R&D投資など夢の夢。教育もままならず。 OEMという名前の在庫処分では、バナナのように買い叩かれた現実(\450)に、OEMビジネスへの夢が打ち砕かれたようです。そんな現実をものともしないように、明るい表情での発表が印象的です。
その後、見かねたメインバンクが救済という名の介入に入りました。社長の末安氏は、銀行と労働組合あてに、経営再建案の提出を余儀なくされました。もちろん、望んで書いた内容ではありません。 お決まりの過剰設備の売却処分、有価証券の売却、役員報酬の大幅カット(販売員並み待遇)、本社屋の引っ越しなどが強行されました。 セールスの他社転籍は拒否されましたが、固定費を減らすことができ、何とか廻るようになったけれど、まだまだ先は見えません。 固定資産売却損の明細は設備で-25500、株式で-1500です。
さて、本当に製造ラインの売却は正しかったのでしょうか?。支えきれない重荷ですが、温存(死守)できなかったのでしょうか?。 経営環境からは、どこの会社もキャパシティ不足が課題です。「SS様向け専用ライン」として稼働できたのではないだろうか。 需給を読んだ長期的な視点からの判断が不可欠ですが、この人たちには手元のゼニしか関心がないから、無理だったのでしょうか。「貧すれば、鈍する」これは言いすぎ・・・ でも、実際の経営でもトップが金策に追われたら、まともな計画などたてられませんよね。
せつかく三期より役員に迎えた大株主夫人にも、合いそうを「つかされて」、逃げられたのでした・・・写真をクリック
ちなみに、利益剰余金はマイナス98百万円、繰延税金資産は65百万円です。将来の黒字の見通しが立たなければ、繰延税金資産は一気に取り崩す羽目になります。そしたら、1億6千万円、債務超過寸前ですよー。シャチョー、さー早く。 ヨニゲノジュンビデスヨー・・・
ご苦労さまでした。 8期連続赤字の日々、よくぞ耐えました。TUKUSUも8期連続ですが、彼らはその原因が分かっているので、楽しい赤字でした。 当社はというと、原因不明の慢性疾患みたいでしたね。
販売台数はそこそこ出ていますが、損益がだめです。結局、数量は低価販売の成果でしかありません。セールス部隊は多い方でした。 春闘では亀裂を残しました(役員に、オレも辞めたいと漏らした人がいました・・・)。フル販売したこともないのに、パワーupを導入しました。R&D投資は、この会社には言葉すら存在しません。市場選択にメリハリがありません。
たくさん売るよりも、高く売る努力が必要でした。問題は市場選択という決算書に現れない要素です。要するに投資(カネ)ではないのです。知恵です(言いすぎでしょうか?)。早く見つけないと、自社が特化すべき市場がなくなりますよー。
でも、本当の原因は当初の経営目標に縛られたためでしょうね。「拡大路線に傾注する」もよいのですが、準備期間が必要でした。経営資源の厚みをつけてから挑戦してください。
最後はSSへ3700万円の大口商談がまとまり、爽快な感じがしましたが、自社の開拓努力でないならば、二度目の注文はきませんよ。
新年度からは相談することができない「相談役」が来られました。じっと観察されていました。「赤字に耐える経営者とは如何に」を観たのでしょうか?、それともただ呆れていたのでしょうか?。 席が近い方、聞いてみてくださいな・・・
5.エーテック㈱・・・なにもしないとこうなる、やりすぎると3番になる
計数能力が高く、数字はピタッと合います。初年度の営業黒字はトップでした。でもそれは、投資を手控えた結果の損益です。維持的費用のみでは将来の利益を保証しません。確か、初代社長も、わかってはいたようですが、こんなに追い越されるとは思ってもみなかったでしょうね。 でも、それじゃー確信犯ですよ。 数字がピタリ合うのは、複雑なことしない単純な会社だったからでしょうか?
二年目、なにもしないを良しとする方針からの転換は容易ではないみたいです。注力したのは教育のみ。きっとR&Dでは成果が遅れると見たからではありませんか。麻雀の安上がりみたい?
トラブルにも見舞われました。偶然ですが、第7期は失礼をしました。その前後期と同じ販促とみなして再シミュレーションしたら、7期で30台、8期で7台ほどの販売増になります。・・・そもそもは手のかかるTUKUSUのせいです(責任を転嫁しています。)
2009年度の修正P/Lは次のとおり。 売上高 404百万円、営業利益 17百万円、経常利益-5百万円、当期利益-3百万円 シェアも1ポイント上がり15%、FTKYとは違う、というのが大事なら、安堵してください。 当社の対局にいるのが、3番の会社であることは、言うまでもありません。
6.㈱SSカンパニー・・・SOSではなくヤマカンですか
売上トップ、利益もトップ、シェアもトップでした。 一言で言うとマーケティングの会社です。強みは最大セールス部隊を擁し、脇目を振らずに都市中心の市場開拓です。価格政策は安売りを避け、市場のストライクゾーンを狙います。 固定費の管理が厳しくて、まさしく固定的に押さえています。設備投資を抑制し、他社からの調達戦略も功を奏していますが、当用買いですから、安定的ではありません。設備投資の抑制は、上がりを意識していたら問題ですが、真相は分かりません。
シェアと決算では業界のリーダー企業と言えます。大株主夫人を迎えるにふさわしい結果です。ちなみに、剰余金の処分をすると、 一株当たり配当金50円で1600万円、利益準備金に160万円、別途積立金に1000万円と仮定し、役員賞与に引き当て分全額の560万円となります。
でも、その地位は安泰とは言えません。自社の生産量を上回る販売力がありますから、安定調達が課題です。ここはひとつ、増資を仰ぎますかな。 もう一つは投資を怠けたR&D戦略は気がかりです。製品差別化では並みの会社です。保守センターは喫緊の課題です。 大隈コーポレーションの南下政策が始まると、ガチンコ勝負になりますよ。
●今回のように、社長さんと役員さんが一同に参加された事例は、初めてです。中堅企業の小回りの効く良い点でもあります。
また、他の若い管理職に交じって、平気で参加される様子を見れば、裃(かみしも)のない社風の良さを感じとりました。 と言っても、「うちもコミュニケーションが希薄なんだけどなー」というぼやきも聞きました、コミュニケーションをとる場が不足しているのかもしれません。
さて、経営上の教訓ですが、汲み取られたのは各人各様です。限定された時間でしたが、責任を背負うトップの立場を机上体験しました。どなたも感じたことですが、この研修は「理解できないままに進む」のです。わからないからと言って止まってくれません。
分からない中で意思決定をするのは辛いです。実はそこに意味があります。そのような場面こそ、真の姿が現れがちです。分からない、知らないというときはどうすればよいのでしょうか?
トップだからと言って、全てのスキルを持つわけではありませんし、それは不可能です。メンバーの英知を集めるのです。英知を出しやすい「場(組織)」を作るのです。役割分担を明確にするのです。トップとは全体の専門家のことです。そして、「人が業績を作り、業績が人を作る」ことをご体験できたでしょうか。
鉄鋼王カーネギーの墓碑銘はあまりにも有名です。
『ここに、おのれより賢い人間を周囲に集める術を知っていた一人の人間が横たわる』
自分よりも優秀な人を上手に使う(マネージメントする)ことが大切だ、という意味でしょうか。口はばったいことを書きましたが、楽しい研修となりましたでしょうか?
皆様の今後のご健闘をお祈り申し上げます。母なる大株主様にもよろしくお伝えください。
経営シミュレーション(ビジネスゲーム、マネジメントゲーム)研修
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いつもお世話様になっております。
東和コーポレーションの渡辺です。
7月8日・9日の研修はありがとうございました。
各社それぞれに特徴が出て、色々な意味で面白い
研修でした。
投稿: 渡辺聡 | 2008年7月14日 (月) 09時04分
こちらこそ、お世話様でした。
皆さんには、読んでいただけるでしょうか?
パソコンを使わない人には紙のがよいですか
ご質問あったら、どうぞ。
投稿: 管理人 | 2008年7月14日 (月) 21時50分