自治体への新公会計制度導入によりコスト意識や財政健全化への関心が高まっている
豊岡市役所の行政職員に経営シミュレーション(ビジネスゲーム)研修を実施した。豊岡市のプロフィールをパンフレット風に書けば、兵庫県北東部に位置し、人口86,000人、面積は700km2、コウノトリの生息で有名・・・となる。
でも今回の勉強風に書くと、連結決算(2010/3期)の概算数字では、B/S総資産は約4,000億円、うち有形固定資産はなんと90%。
純資産は2340億円だから、自己資本比率に相当する値は57%。P/Lに相当する行政コスト計算書では、経常費用が760億円。収益は300億ほど、差し引きの純経常行政コストは約450億円だが、 ここはほとんどの自治体で赤字になるのは当たり前。これを一般財源や補助金等でバランスをとっている。
企業と同列にはできないが、経済主体としての規模は大きいために、上記金額に相当する民間企業はどんな会社があるのだろうかと、研修冒頭に話した。
なお企業なら従業員数がHPで分かるのだが、市役所のHPを見ても職員数(正規と非正規、平均年齢等)は見当たらない。どこかにあるのかもしれないが、他の自治体HPでも職員人数情報は明示的ではないようだ。
そもそも、ナンで市役所の役人が経営シミュレーション 研修などするのだろう、と思われる人もいるだろう。
役所内での呼称は経営シミュレーション研修にした。ビジネス「ゲーム」などと呼ぶと、門外漢には遊んでいる、と誤解されかねない…(^-^;
行政を取り巻く経済環境や世間の見る目は厳しくなっている。そういう背景もあるだろうが、当市ではトップ(市長、副市長)がコスト意識を高め、民間の経営マインドを植え付けたいという狙いがあったようだ。本研修はその一環である。
雪国ではないのに、先日1mもの大雪が降ったばかりの雪景色の豊岡市であった。道路わきに積みあげた雪で歩道が見えない所もある。
研修会場は休館日の豊岡市立図書館。旧豊岡県庁跡地に建つだけあって、堂々の構えである。中も立派だった。周囲には武家屋敷を思わせる古家も残っている。
部屋は参加者もPowerPointを使うために、二画面のプロジェクターを準備した良い環境だった。
参加者は年齢や職位が似た人が集まった。市役所の中核層だと思う。日頃の業務とは異なる未経験の領域の研修テーマだから、こちらも心配したのだが、前向きに取り組んでいた。指名ではなく自発的な参加者であったためだろう。テーマに強い関心を持った人だからこそ良い意味での均質な人材が集まったと思っている。
企業向けと同じく事前学習を課した。テキスト教材を事前配布し、専用HPを見て課題をしてもらった。事前課題という負荷に「大変だなー」と嫌われるかなと案じたが、杞憂だった。
豊岡市役所の『コストを意識した行動指針』というpdf文書がある。P6の会議運営の中で「資料を事前配布し、目を通していることを前提として説明する」という項目を発見した。我意を得たり、だった
ビジネスゲーム研修は4社編成で標準的な進行プログラムで行った。途中資金繰りに窮する局面もあり、借入交渉や在庫処分の商談もあった。中小企業経営のダイナミズムを体感できたことだろう。
一方的な業績に偏らずに赤字や黒字をそれぞれ体験した。中間決算では1社黒字、三社赤字。最終決算は黒字3社(うち累損解消1社)、赤字1社となる。
フェイスマーク(顔絵)はバラエティーに富んだものになり、鉄火場(!)の責任者としては良かった…( ^ω^ )
心なしか、赤字になった会社の人たちは凹んでいた・・・。 最後の株主総会には全役員が登壇したので、土下座するのかと思いきや、そうではなかった・・・
研修の目的は業績にあるわけではない。座学の講義や本で知る知識も大切だが、現金主義である国や自治体の会計情報と発生主義である企業会計の違いやキャッシュのありがたさ、怖さを体感できたと思う。
参加者の意識が高いことは前述したが、理解度も高い方だった(民間と比べて遜色ない)。具体的には計算能力が高い。平たく言えば電卓をスピーディに叩ける。片手ブラインドタッチの猛者もいた。減価償却とか債務超過の意味をよく知っていた。これなどは企業人でも「聞いたことあるけど、説明はできない」という人が多い。機会損失も解説なしで分かっていた人がいた。まとめのPowerPointスライド作成も手馴れていた。
面白いことに気付いた。「字がきれい」なのだ。
汚い字のまま平気で提出する人、或いは薄い筆圧、そういう人が増えている (特に若い人…最近では↓の方の記事)。字の巧拙と能力にはあまり相関はないと思うが・・・受け取る側としては閉口する。
役所に勤めるとペン習字のような基礎訓練をするのだろうか、彼らがたまたまそのような世代なのだろうか。或いは役所とはリテラシーの高い人を採用するのだろうか?
------------------------------------------------------
●株主総会での教訓抽出の例
・社長ができてうれしかった。目先の現金に目が行き過ぎて、買掛けなどの負債を忘れがちになった。
・たくさん仕入れると、翌月の支払いが増えて、資金繰りに影響が出る。かといって、仕入れを控えると機会損失が発生して儲け損なう。
・普段体験出来ない研修でした。企業経営も念頭に、行政運営を推進していきます。
・企業の資金繰りの大変さを知ることができ、貴重な体験でした。体験先生が本物の金融業者に見えた。今後は、もっとコストを意識して業務をしていきたい。
・お金がない苦しさを痛感した。労務に対して適正な報酬や待遇で報いないと、痛い目にあう、市場原理が分かった。
・薄利多売は相当厳しい事が分かった。売り上げ予測と在庫管理が難しかった。
その他にも、たくさん出ました。共通点を要約すると、仕入と販売のバランスをとる難しさですが、そこに資金のバランスも勉強したわけですね。
●補足 自治体の公会計における財務四表の相互関係とビジネスゲーム研修
追記 2012.12月 第二回目の豊岡市職員研修でのビジネスゲーム
地方自治体 ビジネスゲーム 都道府県 経営シミュレーション 財政健全化
経営計数能力 独立行政法人
最近のコメント