55歳からのハローライフ「空を飛ぶ夢をもう一度」が一番シリアスで面白い
病苦と経済的苦境を抱えた「空を飛ぶ夢をもう一度」が一番深刻でスリリングな展開だった(感想)
・・・前からの続き。
腰痛に苦しむ主人公(因藤茂雄)が、なけなしの金を使いながら、重病の友を抱えて山谷からタクシーと高速バスを乗り継ぎ、別れた母を訪ねる命がけの道中の様は、目に浮かぶようなリアルな描写とハラハラさせる醍醐味があった。実に巧みな小説だと思った。
中高年、或いは定年後の老後には誰にでも三問題が待ち受けていると思う。
1.経済的なこと、つまりカネの問題
2.夫婦関係または寄り添う人の有無
3.病気・健康問題
どれも大丈夫という恵まれた人は少ない。そもそも最後の健康問題はいずれやってくる。
本書は、このうちのどれか一つか二つの問題を抱えた主人公を通した、今の時代に有りそうなそれぞれの物語である。幸いと言うべきだろうか、三重苦の物語はない。
どの問題が一番深刻かは、人によるけれど、病気を抱えるのは一番辛いことだと思う。その例は「空を飛ぶ夢をもう一度」だけだった。生活苦と持病を抱えた設定での話ではあるけれど、けっして重苦しい話ではない。最後は安らぎのある物語として完結している。5編の中では一番良かった。
他の話しでもそうだが、背景はシリアスで重苦しい設定になっているが、すべての話は最後は前向きに終わっている。5話のトラベルヘルパーに至ってはユーモアもあって面白い。
表現で少し気になったことがある。名前の使い方だ。
一つは、「悠々自適層」である第3話「キャンピングカー」の主人公の名前。富裕という。物語ではトミヒロと読ませる。何もそこまで即物的な名前にしなくてもと思い、少し話が軽く感じてしまった。
もう一つは、流行りかもしれないが、名前をカタカナ書きすることだ。都会のマンション暮らしで身持ちの良い女性という設定がそうさせるのかもしれないが、主要人物名までもカタカナ書きは少し違和感があった。
というのは以前、日経ビジネスONLINEでマーケティング関係者のコラムで、もっと徹底した文章を見たことがある。全編、ヨウコとかマコトはとか、カタカナ名で話し言葉の文章が綴られていた。
内容は週刊誌にありそうな妄想コラム的でしかないけれど、日本人の名前をカタカナ標記することで何かオシャレになった錯覚を覚えるのだろうかと、軽さを通り越して不快な読後感を覚えた。(その後、その執筆者はお目にかからない)
それにしても村上龍とはこんなに巧みな話の展開をする作者なのかと感心した。
追記
4.老老介護の問題
これも重くのしかかる場合がありそうだ。そのために早期に退職したりする人もいる
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