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2013年11月25日 (月)

母の遺産-新聞小説、母娘の愛憎、姉妹の葛藤、夫婦の破綻てんこ盛り

読後感が清々しくなる小説ではないが、似た現実を知っているとドロドロ感にも味がある
 

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母の遺産-新聞小説、2012年/水村美苗著/中央公論社
 
 
524頁もある。ハリーポッターの本みたいに厚い。こんなに厚い小説を読むのは何年振りだろう、と自分なりに感心。
 
中身を知らないで借りた。装丁が重厚だったと言うのもあるけれど、実は勘違いだった。帯文を斜め読みし、当節のネグレクトの物語かと思って借りた。
 
 読後にネットで見たら作者の体験もあるようだ。そうは言っても基本はフィクションだろう。
物語を少し読み始めて直に、似たような経験を思い出した。小説の方が派手な世界だけれど、部分的には「事実の方」が小説よりも奇と思うこともある。
 実はその点こそが、この長い小説を最後まで読み続けた理由でもある。
 
 主な登場人物は全て女性、男は脇役に過ぎない。
 母と娘のドロ沼のような愛憎関係、姉妹の確執、夫婦の亀裂等々が三代にわたる一家のルーツから介護、離婚へと行きつ戻りつの展開で綴られている。壮絶な感じもするが、世情から浮いているような話でもある。それはこの一家には経済的になんら不安がないからだ。
 
 つまりは市井の一家の愛憎物語ではない。かと言って「華麗なる一族」でもない。虚飾的な世界の仲間入りに固執した母とそれに抗う娘の葛藤のような物語だ。
 
 母の浪費的な贅沢に振り回される様子が書かれているが、それで生活が窮したわけでもない。降りかかる病気や介護、離婚もおカネであっさり解決しているように見えてならないから、深みが無いという印象だ。 確か文中には中産階級とか書いてあったような気もするが、果たしてそれは適切だろうか…。ただし介護で苦労をしている人が読むとまた違う感想を持つだろう。
 
 タイトルには副題のように「新聞小説」という言葉が添えられている。途中から桂家の精神的なルーツを物語る逸話として尾崎紅葉「金色夜叉」の新聞小説のことだったようだ。
 一体「母の遺産」とは何か。ありきたりの土地家屋やカネではないだろう、と思っていた。深い『何か』。そこに長い物語の帰結があるのかも、そんな期待を持って読むようになった。
 
 後半の箱根ホテルでの展開から「遺産とは何か」に至るのかと思っていた。ホテルに登場する人物や舞台設定は多分にエンターテイメント要素として書かれたのではないか思うが、ステレオタイプなテレビドラマ風、と思いつつ読んだ。 
 
 「母の遺産」とは何か。
 単なるプラスの財産ではないだろう。むしろ負の遺産であろうと思う。それは、母が死ぬまで見せてきたエゴと見栄に支配されたような女の生き方であり、それが娘を縛り付けきたものだろう。 物語は母の呪縛(負の遺産)からの次女の決別なのだと思うけれど、その当たりの深堀が足りないように思うのは介護や離婚、失業と言う今日的問題を扱いながら主人公を取り巻く環境がいささか安易に見えるからだ。 むしろそれすらが憧れの対象に成り得る、というのは穿った見方かもしれないが、結末は3.11の大災害を経ても「まあ、イイワネ」と思われるような淡白なものだった。
 母の遺産(実質は父のプラスの遺産)をありがたく継承してしまい決別できていると言えるのだろうか、という終わり方に思えた。だから読後感が物足りないのだろう。
 
 
 長編小説なのは、それは心象風景の修飾がやたらと長くて多いからだろうと思う。この当たりは好みかもしれないな。個人的には美しい日本語というほどには思えなかった。いくつか、主語述語の関係が離れすぎて読み間違えしやすい個所もあった。
 
 面白いことに、今日的なパソコンやGメールが良く出てくる。
 
 

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