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2013年12月 1日 (日)

冥土めぐり(芥川賞)-不条理な家族の呪縛から、無垢で愚鈍な夫に光明を見出す従順な娘の物語

不条理な母の呪縛から逃れようとする娘の葛藤・・・への感想
第147回 芥川賞受賞-冥土めぐり 鹿島田真希著

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手にした動機は、図書館のおすすめ棚に置いてあったから。もちろん芥川賞作品というのが効いているけれど・・・。 
芥川賞作品は受賞当時は予約が多くて順番待ちになるらしいけど、半年もしたら閑古鳥みたいだった。
 
 最近はこんな本ばかりなのだろうか?
 と思うように陰気な物語だ。
 現代社会の暗部をえぐる骨太な社会派小説でもないし、なんとも生気の無い人間ばかりが登場する。よく言えば不条理な母弟とそれに抗う事の出来ない従順な娘の物語だが、まるで洗脳されて逃げ場のないカルト信者が最後に達観する物語のようにも見えてしまう。
 
 登場人物は四人とシンプルだから読み易い。パート勤めの娘(主人公/奈津子)とその夫、そして元スチュワーデスで虚栄心の塊のような母親と自堕落な弟。
 
 心象描写がくどくどしていない文章なのもいい。「冥土めぐり」というタイトルから「心中」かなとも思ったが、たった一泊二日のつましい旅行の中で一家の生活や母のことが回想されながら物語が進むという点では面白い展開だった。
 
 裕福な祖父が死に、父も病死してから一家は経済的に苦しくなる。お姫様扱いを受けて育った母にはその凋落ぶりを受け入れられず、やがては作為的に精神障碍者の認定を得て年金生活を手に入れた、という狡猾な人物だ。
 
 母と弟は自分達が上等な人間であると自らに虚栄する一方、娘をカネずるとして寄生する。主人公は意思や感情が希薄な人として描かれていて、不条理な仕打ちに辟易しながらも受け入れていた。まるで虐待を受けている子供が逃げ出さないかの如く。
 
 やがて娘の夫までにも寄生しようとしたが、夫は突然発病する。脳障害になった夫は無垢な人として描かれているが、愚鈍さは否めない。 より厳しい重荷を背負うことで、あの二人からの呪縛から少しでも解放される、という風に読めてしまった。 つまり誰からも可哀想な対象となる人物に尽くすことで、心が救済されるみたいに書かれているのは少し安易ではなかろうか。
 
 心の易しさを持つが故に、母の呪いのような価値観に染まることが無かった娘が背負ってきた葛藤だけでなく、あの二人と適切な距離を保って生きていく強い意思を宿して自立した人間として成長する姿、克服していく姿が描かれて欲しかった。それこそが純文学の力ではなかろうか。 
 
 最後は薄暗い中に光明が感じられるが、障害の夫を背負うことは並大抵では無いだろうから、やがて消え入りそうな心細い光に見えてしまう。
 
 読後に、困窮しても周りに助けを求めない人は居るものだというニュースを思い出した。
 
 
 もっと不思議なのは、母と娘の関係性と小説の構図が先日読んだ「母の遺産」と似ていると思ったことだ。
 

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