本屋大賞、海賊とよばれた男には不快な面白さがある
本屋大賞作の「海賊とよばれた男(上/下)」は○○佐三をモデルとした経済小説
初めて読んだが、この作家は今は売れっ子みたいだ。「永遠の0」は映画になって、やたらと販促の宣伝をしている。
中身は民族系石油会社の創設者の一代記、経済小説だ。明治~昭和に及ぶ国岡商店の発展の物語だけれど、ようするに稀なる反骨精神とヒューマニズムを併せ持つ偉人伝と言うところだろう。戦前戦後の古い話が多いが、意外に文体は軽くて読み易い。
タイトルの「海賊とよばれた男」の海賊とは若いころの洋上商法でのあだ名のようだが、それは一時に過ぎない。全編を流れるテーマからすると 「メジャーと戦った男」、「7人の魔女と戦った男」の方がしっくりくる。
でも個人的には「ドンキホーテとよばれた男」でもイイね。
おぼろげながら、日章丸事件は聞いたことがある。
とりわけ戦後復興期からの石油自由化をめぐる物語は波乱含みで面白い。しかし人間描写がステレオタイプにすぎている。あまりにも聖人君子風であって児童向けの伝記小説のようにも見えてしまう。
起業時の元手(資本金)を「もらった」というのは良いとしても、資金繰りに窮するたびに銀行幹部との禅問答やら人物評価で融資を受けられるという話が幾度となくでてきて、なんとなく鼻白んでしまう。
所々に古典的というか漢文調の見出しや言葉を入れて、時代がかった嗜好を凝らしている。馘首なんて初めて聞いた。そのわりには文章がやや単調。文末が「・・・た」で終るのがやたらと多くて読んでいて平板である。その意味では、骨太の経済小説という感じに仕上がっているわけではないので、物足りない。成功談が多すぎたり、影の無い光の世界のようなのだ。
概ね実話なのだろうと思うから、その点は面白い。特に既得権益者や官僚たちが国家よりも組織や自己保身に執着する様は、今日でも全く同じ風景を見るようで、「不快な面白さ」がある。
本を読んでいて、ふと若い頃のことを思い出した。
ある組織で、幹部の誰それは陸軍出身だとか海軍だとか、そんな話を聞いたことがあり、とても奇妙な印象を持ったことを思い出した。
メーカー勤めの時のこと。
人間尊重で家族主義的な会社のようだけれど、その子会社に納品したことがあり、何度か訪問した。小説から受けるような印象は全くなかったなー・・・。子会社だからなのかな?
事実は小説より奇なり。
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