上尾市中央図書館基本構想を読む前に知っておきたいURBとは-7
統計が映す姿と貸出数の3要素から見える未来
2016/10 下記は純粋に図書館の在り方や貸出増を伸ばすために書いたものです。が、図書館問題の本質は文教ではありません。がっかりするようなかび臭い問題です。その点を知っている方は特に読む必要はないでしょう。
1.現状
上尾市図書館要覧2014によれば、本館は1981年(S56)に開設。延床面積2,649m2、総工費63,000万円。市内には分館や公民館、消防署等での間借り施設(併設)を含め9施設があります。貸出実績では本館に一極集中しているわけではなく、分館の貢献が目立ちます。
2.利用推移
基礎データは要覧等から引用。項目名称は独自に作ったものも多い(詳細は次記事)。なお市の図書館要覧には利用効率を分析する管理指標は少ないです。
●貸出数と利用者数、一人当たり貸出数の推移(クリックで拡大)
・貸出数は低下傾向にあり5年ぶりに140万冊を割る。
2012年度が貸出と利用者数で突出したが理由は不明。翌年減少したので一過性かもしれせん。
・利用者数は伸びる傾向にあり40万人台を維持。
「利用一回当り貸出数=貸出冊数÷利用者数」は一度に何冊借りているかを表す。
平均3冊ですが、利用者が増える傾向ですが貸出数が減っているため、3.2冊へと低下傾向。他市とくらべてもやや低い。なお駅前分館は2.5冊と少ないです(大人が多いためかも)。
●主要三館の貸出数の前年比伸び率(参考に全体蔵書数も)
貸出数は本館69万冊、駅前14万、大石22万となり、全体の78%を占めます。主要三館の対前年比伸び率をみます。
駅前は2006/1月稼働、大石は2008/1月に2倍増床してます。トレンドとしてマイナス(0%以下)になる年の方が多いです。黄線の蔵書数は微増傾向ですが、蔵書数と貸出数には相関がないように見えます・・・
3. 貸出数の構成要素
図書館の利用度は貸出数に現れ、「貸出数=利用回数×一回の平均冊数」となります。利用回数とは貸出利用者数(年間の延人数)です。
「利用回数=1年間に1度でも本を借りた人の数×平均利用回数」により次式になります。
貸出数=実質登録者数×利用回数×一回の冊数 ようするに、
貸出数=ユーザー数(U) × リピート回数(R) × 貸出数(B)/回
市民の中のU人が、年間R回借りにきて、そのたびにB冊借りる、という意味です。
上尾市の2013年度: 134万6千冊=37,260人×11.2回×3.2冊
(↑人数については前ブログ記事を参照)
この式は商売における 顧客の数×リピート数×平均買上げ点数 と同じ(本来は平均客単価もあるが図書館ではあり得ないので省略)。
従って貸出数を増やすには、URB値を上げること。
1. U 実質登録者数(ユーザー)を増やす
2. R 来館リピート回数を増やす
3. B 一回に借りる本の数を増やす
なお、R×Bは一人当たりの年間読書数を意味し、36冊/年である(本以外も含む)。
4. 思いつきのマーケティング策
小売業なら、良い立地に出店し、広い売場面積、豊富な品ぞろえ、値ごろな価格、営業時間の長さ(24H年中無休)となります。しかし図書館はそうはいきません。タダで読めるとは言うものの金銭的誘因は薄いと思います。借りる度に税金がキャッシュバックされるとか、ポイント献上はできませんね・・・。
URB向上のため行政マンは知恵を絞り、市民にも広く意見を募るべきです。
・実質登録者数(U)の源になる名目登録者に対しては来館を促したり、新規の登録者数を増やすこと。例えば、幼児期のある年齢イベント時に図書カードを発行をしてあげる。
「実質登録者数÷人口」の登録率は開拓努力の評価指標です。なお川口図書館では実利用者数と称している。
・マクドナルド商法
幼児や児童に、年間○○冊達成でアッピーグッズを進呈しては如何。子供は人口減社会の救世主ですか子供への税金投入は他政策では常態化しています。 (グッズ欲しさの架空借りを防ぐには)、冊数より貸出回数にすれば良いかも。来館リピート数増加の方が効果的です。
・読書通帳(図書館通帳)の導入
銀行通帳もどきの通帳に日付、書名等を専用機で印刷するもの。子供に達成感を実感させるから動機付けには有効です。県内では鴻巣市立図書館が早く導入してます。専用機ではなく手書き方式や無料から一部有料までいろいろあります。借りた本の値段やその累計額まで分かる方式は、公的サービスの価値を訴える点で優れています。 参考: 読書通帳。
しかし機械一台500万円とか通帳も1冊数百円するらしいです。2000円/冊の本なら2500部購入できます。一台では不公平という声で、複数台導入となると1千万円は「本」末転倒です・・・


読書通帳は子供にはよき成果物になりますが、効果として読書が増えたのかの検証記事はしりません。また前記事のように成長してYA世代へ進むと図書館には来ません(下図)。でも読書力のある子はその後の受験勉強には効果あると思います。
昔、わが子にこれをやりました。本の感想評価を○△等で記入もさせましたが一人目は数百冊で挫折、次女は900冊まで行きましたが、今その帳面は行方不明。
・貸出時の印刷紙片に、利用者の累積利用数(何冊借りたかを示す)を印字します。何を借りたかというデータは消していますが、この程度はすぐできるはず。去年の値も持たせて、当年**冊/前年**冊とするのも達成感が得られます。
・市外からの転入者に、図書カード発行を推奨する(文教性のアピールになるかも)。市外転出者には図書カード返却を推奨する。
・営業時間は、本館や駅前分館は開館時間を延長済み。分館は主要客層が児童だから延長しても効果が薄いどころか午前中は開いていません。むやみに開けても費用対効果が悪そうです。
・休館日を別にする
さいたま市のように月と火に分けて休館するのは、月曜休みの勤労者に光を当てた政策です。毎日どこかの図書館は開いているのは良いですね。上尾市も本館と駅前館のように距離が近い所には休日を別にすべきです。一斉に休むというのは「供給者の理屈」です。
・リピートを増やすために、返却Boxに新刊案内POP広告やイベント情報掲示をします。
・図書館ホームページの利便性向上
今はテキスト主体ですが写真などのグラフィカル情報を扱えると利便性が増します。検索途中から外部(アマゾンや楽天等)へリンクさせてください。書名+書評のアンド検索でつなげるのも面白いです。ホームページはアイデア次第で発展性があります。箱モノと比べたら安い投資です。
・「その本、図書館にあります」はアマゾン依存者にお勧め。Amazonを逆手にとって図書館を使おう。

・立地と転入人口増
1館巨大図書館よりも小規模圏でのアクセス性の高い分館化が好ましいです。巨大図書館は駅前でない限りアクセス性が悪いです。当地は車社会というよりも自転車社会です。郊外では、児童や高齢者の来館が減ります。雨の日は自転車の来館者も減ります。現本館も天気の悪い日は閑散、稼働率は低いです。上平に大型館など実態無視の案です。
利用統計からも分館が貢献しています(特に児童層)。 需要面と都市政策からみて、北上尾駅前の分館はニーズ有りと思います。他にもショーサンプラザやまるひろ百貨店、イオモール上尾等への図書館進出案もあるでしょう。これらは市の魅力度アップして転入人口増に効果があると思います。 駅前妄想案はこちら
前記事: 図書館の効率指標 JR駅利用人口について
・1回当たりの貸出数(B)について
上尾市は貸出数無制限という破格サービスをしています。しかしたくさん借りても2週間の返却期限内に読めないとか読後の本が長く借り手に滞留し、返却遅れとなり貸出回転率が悪くなります。「貸出青天井」は良いルールとは思えません。そもそも一度にそんなにたくさん借りる人は居ないでしょうね・・・
・既存施設で品ぞろえ(蔵書数)を増やすことは、開架スペース拡張が不可欠となり難しいです。その蔵書不足を補うのが広域利用です。
上尾市59万冊+さいたま市+桶川市+蓮田市+伊奈町=480万冊(点)
総人口167万人で割れば、一人2.9冊(現在の上尾市と同じ)。 ネット上では480万冊という凄い蔵書数のバーチャル図書館が存在しています。
・制限のない広域利用の追求
上尾図書館経由でさいたま市から借りるには制限があるらしいです。地元市民を優先するためかもしれませんが、政令指定都市とは対等付き合いは難しいので、他の三市1町なら対等になれるでしょう。その場合は蔵書120万冊です。
行政の垣根のない運営を目指して上尾市がリーダーシップを発揮しましょう。配送手配短縮化を目指します。この考え方は自治体業務の共同事業化構想という、人口減少時代の対策です。
・棚の図書しか知らない人への啓蒙・・・二つの市外分館
書棚を眺めて、そこにある本しか図書館に無い、そう思っている人はいませんか?。もう一つは、検索すれば埼玉県全域(県立図書館も含む)から借りられるバーチャル図書館の存在。これらを棚や壁に告知し啓発しても良いでしょう。
● 推奨 埼玉県内公共図書館等、横断検索システム
・上尾市図書書検索システムの改善で、アマゾンへ逆襲
検索で探した本が無ければ「無し」と表示されますが、他市サイトへ行って再び書名を入力して探すと「有る」場合があります。 書名の再入力をしないで済む他市とのシームレス化を望みます。
①蔵書検索のメインメニュー画面に、埼玉県図書横断検索システムへのリンク。
②市のWeb予約画面に「○○市にあった」と本人がコメント入力できるようにする。蔵書外の予約のために図書館に行く必要がなくなります。
・図書館のAmazon化を目指す
蔵書拡大用に地価の安い郊外倉庫を持てば投資が軽くなります。既存図書館はWeb予約からの受け渡し場所としての機能を高める。 小学校なども空き教室化が進むなど公共施設の空きスペースはありませんか(年間400-500校が廃校になる時代)。 書庫兼閲覧場所という固定観念を取り除きます。入出庫作業はコスト増となりますが初期投資は軽いです。
・有料配達サービス。高齢化や時間節約等でニーズはあると思う。配送料+手数料をとる(図書購入費に充当)。
・IT時代への適応
『書棚を巡り、目視で背表紙をみて探す、ブラブラと本を手に取り探す』という行動しか連想できないのは昔の図書館への懐古趣味です。子供は既にタブレットで学びます。図書館はスマホやPCで予約して受け取りに行く場所と化しています。書棚を徘徊する人よりもネット予約や館内端末(OPAC)の前に列をなす人のが多いはずです。
・増席も大事、居場所の提供へ
面積を確保して蔵書を増やすよりも、閲覧椅子と学習机は多いほうが良いです。中高生や社会人に学習空間を提供することは大切です。高齢化社会のためにもタダで長時間居られる公共空間は大切です(目的外利用とは言うが寛容さも必要かと)。図書館のあり方も変わってよいでしょう。
ちなみに滞在型利用者は中高年男性が圧倒的に多いです。図書館ではお喋りができないから中高年女性が少ないのでしょうか。
今の図書館を取り巻く変化を理解できない旧世代の人間が、「23万人都市にふさわしい」という蔵書数と面積という規模拡大の発想で今後30年へ向けた投資を企画しました。しかし図書館に行かない議員や○○では問題解決できません・・・。
5. 抗えない、需要減少
いろいろ書いておきながら身も蓋もないのですが、いろいろ改革をしても、図書館利用を高めるのは至難の業であるということです。 総需要の減少とネット利用につきます。 少子高齢化による読書人口の減少×読む頻度の減少は、どうしようもありません。
供給側の街の本屋も減っています。毎年500軒が廃業し、1999年から2014年までの激減ぶりは四割近い。詳しくは、日本著者販促センターのサイトにグラフ付であります
過去記事 書店の数が10年間で3割減った
次記事: 図書館データで埼玉県7市を比較 -8
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コメント
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Amazon様
初めまして。
西上尾第一団地に住居します、秋池 幹雄と申します。
中々鋭く切り込んでいらっしゃって感動しました。
これからよろしくおねがいします。
先ずは、記事を拝読させていただきました御礼を申し上げたくて書き込みさせていただきました。
投稿: AAN世話人のひとり、秋池 幹雄 | 2016年1月 6日 (水) 16時58分
ご来訪に深謝。
コメントに実名とは珍しいですね。
上尾市図書館問題の答えは「政策的合理性」と「政策責任」の追求しかないでしょう。
前者の参考になるのがURB等の考え方です。とても文教担当者と指名された一部市民が真面目に利用統計を精査したとは思えません。
後者には立案者全員の名前を開示すべきです。
納税者のカネですから。
投稿: 管理人 | 2016年1月 7日 (木) 12時28分
上尾の図書館利用の現状の詳細な分析と従って貸出数を増やすには、URB値を上げることの提言にその通りだと思います。市民の意見を無視した図書館施策が問題だと思います。一度交流できると幸いです。以下案内します。
2016 01 20
図書館を考える学習討論会開催案内
(詳細は検索してください/ブログ管理者により変更)
投稿: 若島敏夫 | 2016年1月 7日 (木) 22時02分
ご来訪に深謝。
ただし、内容を訂正させていただいております。
ご主旨は宜しいのですが、組織的な企画告知は、外部URLでのリンクにしていただける方がスマートかと。
一応、ここは個人ブログですので、宜しくご理解ください。
投稿: 管理人 | 2016年1月 8日 (金) 12時07分