後妻業とは言い得て妙な犯罪用語かもね
高齢化社会に巣食う悪意を関西弁で色濃く描いた犯罪小説
後妻業 黒川 博行(著) 文藝春秋
「事実は小説より奇なり」と言うけれどタイトルからなんとなく内容が想像できるのは、現実事件の方が先に発生していたためかもしれない。
木島某の婚活詐欺殺人事件が直ぐ連想される。その事件は執筆の参考になっていたようだ(物語内にも引用されていた)。
その意味で、婚活事件よりも先にこのネーミングで書かれていたら、より先見性が評価されたと思う(実際には2014年出版で、それを絵に描いた様な筧某の事件が発覚した)。
「後妻業」という言葉は元々世俗的に使われているのか検索したら本書関連ばかりがヒットする。著者の黒川氏による造語と思ったが、本人は友人から聞いたとネット記事にでていたようだ。
しかし本書により、後妻業と言う言葉を世間に広めた功績は大きい。言い得て妙なる「後妻業」が広がることは、この手口の犯罪抑止に少しは貢献すると思う(振り込め詐欺はちっとも減らないから、そんな甘くないという見方もあるけれど・・・)。
本を手にして、分厚いので躊躇したが中を開いたらスカスカ。
今日的なテーマでリアル感もありサスペンス的にも面白かった。
短い会話、それも関西弁でとんとん拍子に進むから、読むのは楽。ストーリーの展開は小気味よくて読ませる工夫がされていると感心。登場人物が多く、場面が替わって誰れの話しか混乱することもあるが、主要な人物の性格が際立っているから直ぐ話がつながる。
なお登場人物はほとんどワルばかり、主人公は設定されていない。 地名や社名、車等々、実在する固有名詞が使われていたりしてリアルだ。
後半は元刑事が主犯たる小夜子と柏木の人生を過去へ過去へとさかのぼるプロセスが面白い。それでもやや物足りなさが残ったのは、狡猾で残忍な犯罪なのに犯罪者の深層心理を精緻に描くという小説ではなかったことだ。松本清張風に人間の生い立ちを深く掘り下げていくと小説としての重厚さがでたと思う。
どんな終幕になるか気になったが、ラストは巧みであり納得感があった。
それにしても保険金ではなく相続財産狙いの後妻は何回も繰り返すと疑われるが、一回でそれも老人の死を待つだけなら発覚しないだろうと思う。資産家老人が年の離れた女と再婚する時は、親族が身辺調査を依頼することが増えそうだ。興信所は新しい需要ができる・・・
ちょっと表紙デザインが気になる。
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