武雄市図書館の貸出統計にみる増加と減少の悩める姿
他市民が45%も利用するツタヤ式・広域市民図書館。
※ 7/29 時間当たりの利用者人数と貸出数の表を追加。 7/25 蔵書数等変更(コメントに、はなかっぱ氏より県資料リンク提供あり)。新聞データとの齟齬もあり県資料へ統一、かつ蔵書数に視聴覚資料を、貸出数に団体貸出を含めて再計算し内容変更。

いち早く市役所はFB対応にし、佐賀県はICT教育に力を入れている割に、この程度の資料を図書館HP上で開示できないのは竜頭蛇尾です。民間委託以前の問題です・・・。
●貸出統計データについて
主に佐賀新聞ニュースのデータを使いましたが、蔵書数が不明のために重要指標の蔵書回転率が算出できませんでした。データ元が判明したので、2011-14は「佐賀県の生涯学習・社会教育」に統一。2015は未開示であり、蔵書数は22万5千冊と仮定(図書費予算から推定)。 参考リンク元は末尾に掲載。
年度 |
2011 委託改装前 |
2013 CCC開業 |
2014 二年目 |
2015 三年目 |
---|---|---|---|---|
A来館者数 | 255,828 | 923,036 | 800,736 | 728,248 |
前年比 | -4% | 261% | -13% | -9% |
B 貸出利用者数 | 82,539 | 167,899 | 153,545 | 150,476 |
前年比 | -1% | 103% | -9% | -2% |
C 図書貸出数(団体含) | 352,312 | 555,104 | 480,153 | 460,931 |
前年比 | -2% | 58% | -14% | -4% |
D 市内 利用者 市外 〃 県外 〃 |
79.1%
20.5% 0.3% |
56.5% 32.1% 11.4% |
54.8% 32.0% 13.2% |
55.0% 31.7% 13.3% |
E 当市民の利用人数 B×D | 65,288 | 94,863 | 84,143 | 82,762 |
前年比
下段は2011年比 |
-0.6% (D79%仮定) |
45.3% | -11.3% |
-1.6%
27% |
F 一回当り貸出数 C/B | 4.3 | 3.3 | 3.1 | 3.1 |
G 蔵書数(視聴覚含) ※ | 190,142 | 212,304 | 220,512 | 仮225,000 |
蔵書回転率 C/G | 1.9 | 2.6 | 2.2 | 2.0 |
H 当市民の貸出数 C×D | 278,679 | 313,634 | 263,124 | 253,512 |
前年比
下段は2011年比 |
-2% | 12.5% |
-16.1%
-5.6% |
-3.7%
-9.0% |
当市民の蔵書回転率 H/G | 1.5 | 1.5 | 1.2 | 1.1 |
佐賀県の市町全体では2014年度の蔵書回転率は1.75
(1) 開業前と、開業後三年間の比較表を上から見ていきます。
- 全体として、開業効果が薄れて二年連続で利用度は減少。それは予想通りと思います。開業年度の92万人来館と17万貸出人数を比較すると、いかに見物人が多いかが分かります。
- 来館者数は、ツタヤ書店やスターバックス等の商業施設利用のみの来館者も含まれるため、図書館の評価には使えません。ツタヤ側は最重要視していると思います。
- B貸出利用者数の減少幅(-2%)よりもC貸出数の減少(-4%)の方が大きいのは、一人で複数冊借りるためでしょう。
- 開業前(2011年)と比べ、G蔵書数の18%増に対し、.利用人数は15万人で1.8倍、貸出は46万冊で35%(12万冊)増です。本以外の誘因が大きいことの証明です。
- 全体のG蔵書回転率は2.0なので「並み」レベルと思います。人口の少ない市町は低く目で2未満が多いです(個人的見解)。 分館政策と一館主義の違いもでます。人口の多い都市部では三回転位の値がでます(武雄市だと3倍は66万冊)。
(2) 市立図書館と言う名の広域図書館の商圏
(3) 武雄市の税金で運営されているわけですから、武雄市民に限定した利用実態を見てみます。
- 利用者属性を見ると、武雄市民は全体の55%しかいません(同比率は新聞から引用。Bの構成比率として使います)。
- 市立図書館で市外利用者が45%もいるのは珍しい例と思います。一般に、図書館の利用実態を分析する時に市外利用者の多寡をさほど考慮しないと思います。せいぜい10%前後?だからと個人的に思うのですが・・・
- 結局、武雄市図書館の人数や貸出数の大幅なゲタは、周辺市民の来館が急増したものです(爆買インバウンドみたい・・・
)。 市外の人に大変喜ばれた施設となりましたが、ツタヤが45%に近い比率を事前に見積もっていたとすればたいしたものです。流通業の商圏分析と同じです。
- 車で行きやすいのか、周辺市の図書館(or書店)が貧弱なのか知りませんが、いずれにしても他市民45%は異様であり、ここに「武雄市ツタヤ図書館」の本質があるように思います。
つまり民間発想では商圏を広くして人を集めようとし、公益発想では縄張り内のみを重視する。
(追記: 地図見たら一目瞭然・・・商業施設やスポーツ施設が集積してます。)
(3) 武雄市の税金で運営されているわけですから、武雄市民に限定した利用実態を見てみます。
- E武雄市民の利用人数(年間延人数)は、Bの総人数×55%で推計。 直近の83千人は開業前より 27%も増と良好です。 新規客が増えたり、既存客のリピート回数が増えたと思われますが、その内訳は分かりません。
- 武雄市民の貸出数も同様に算出すると253千冊です(これは実データを開示してほしいです)。 開業前よりも 9%減です。既に2年目(-5.6%)から減っています。
- 武雄市民に限れば、利用人数は27%も増えたが、読書冊数は9%も減った、となります。理由は、F一回当たりの冊数が4.3から3.1へ1冊も減ったからです(他市民も同じ貸出習慣と見なす)。
- 一人一回当たり貸出冊数が3.1というのは図書館としては普通レベルと思います。一般に子供は多く、大人は少ないですが、貸出期間が限られるので概ね3~4冊(点数)と思います。
- 貸出数が二年目から減っているのは意外を通り越して深刻です。通う回数が増えると、一回当たりの冊数が減るのは自然ですが・・・理由はそれだけでしょうか。 よそ者には分かりません・・・
(4) 開業前後では大きく変わった営業時間効果は如何に。
- 開館時間が10-18時の8時間から9-21時の12時間へ4時間延長。50%増。
- 開館日を295日から365日へ70日、24%増。 委託前換算で年14ヵ月!
- 時間数×開館日数では1.86倍の拡大。委託前換算で年22ヵ月相当。
2011 | 2015 | 改装前比 | |
---|---|---|---|
開館時間 | 8 | 12 | 1.50 |
稼働日数 | 295 | 365 | 1.24 |
K 総時間 | 2,360 | 4,380 | 1.86 |
8h換算日数 | 548日 | ||
月数換算 | 22.3カ月 | ||
E 当市民利用人数 | 65,288 | 82,762 | 1.27 |
H 当市民貸出数 | 278,679 | 253,512 | 0.91 |
当市民 利用人数/h
当市民 貸出数/h |
28人
118冊 |
19人
58冊 |
0.68 0.49 |
全体利用人数/h 全体貸出数/h |
35人
149冊 |
34人
105冊 |
0.98 0.70 |
時間帯の来客密度が違ったり、平日と休日の繁閑差は二倍以上もあるでしょうから、時間数や営業日数を増やしても、比例して利用増になるわけではありません。
といっても、1.86倍はとんでもない供給能力のアップです(サービス過剰と思う人は、その分を図書費に使えと言いたいでしょう)。 他の公共図書館では「できない(やりたくない)」方策です。 この大幅な能力アップだけでも、(直営のままでも)利用人数と冊数が増えて当たり前です。なにしろ、開いていないのは深夜早朝だけというフル稼働施設です。
しかし、貸出数という肝心な成果は見かけ(人数)とは逆に、約9%も減少。 1.8倍の稼働時間拡大効果が質(読書数)に出ていないことは明らか。市民(客)が集う場としては良くても、この点が問題にならないのはヘンです・・・

表下側は施設の稼働効率です。「一日当り」単位では開館時間数が違うので使えませんから一時間当たりで見ました。 武雄市民限定の1時間当たりの利用者数と貸出数は2011年比で大幅低下。「一人でも多くの市民が受けられるサービス追求」が主旨であっても、効率が悪すぎです。 他市民含む全体でも貸出効率は悪化。
12時間・年中無休がどんな動機から生まれたのか知りませんが、CCC側の民間発想からはあり得ないと思うのです。或いは低固定費で長時間営業するノウハウ(?)があるから受諾したのでしょうか・・・。
時間延長×年中無休×サービス向上×商業施設併設 ⇒ 市民の読書数減

よほど読みたい本が無いのか、他市民が借りてしまい順番が回らないのか、本のリフレッシュがされていないのか、選書に問題があるのか、館内はお洒落だけれど置いてあるのは古本市みたい・・・
、等々が想像されます。行政が原因追求すべきでしょうね。

時間と空間の拡大だけで、蔵書数を大幅に増やしていないのが気になりますが、市民に限定した蔵書回転率1.1はかなり低いです(一倍割れ寸前)。
(5) 武雄市民のURB値を推定する
URB値とはブログ主独自の測定指標です。Uは一年間に一冊以上本を借りた人の数(ユーザー)。Rは、Uの人が年間に何回借りたかの(リピート)数。B(ブック)は一人一回当たり何冊借りたかというもの、上表Fです。
U×R×B=総貸出数 です。 詳しくは下の関連記事へ
Uは市町の管理能力の差で開示できたりできなかったりします。カード登録人数は休眠利用者も多いため参考になりません。5万人程度の市町では、ザックリ人口の20%と推定(私の近隣で5~7万人の市町3つの例を参考)。 RはE/Uです。
年度別のURB | 2011 | 2013 | 2014 | 2015 |
---|---|---|---|---|
武雄市人口(1月末) |
51,479 | 50,896 | 50,675 | 50,309 |
実利用者数 U | 10,296 | 10,179 | 10,135 | 10,062 |
年間利用回数 R | 6.3 | 9.3 | 8.3 | 8.2 |
一人当り冊数 B | 4.3 | 3.2 | 3.1 | 3.1 |
これより、市民の2割(推定)、一万人が年間8回借りに行き、一回に3冊借りている、となります(R*Bで年25冊)。我が家の近隣と比べても似たような値でした。 Uは自治体の規模によりますが、RとBは読書習慣や図書館の魅力度に左右されます。
平均値どおりの人は少ないかもしれませんが、性別・世代セグメント別に把握すると利用実態の把握や貸出増加策の参考になるはずですが、目標と責任があいまいな行政はやらないでしょう…

(余計ですが・・・、車社会と思うので単純にRを都市部並みに12回(月1)は無理ですね。Bを4に戻すには蔵書を増やすしかないでしょうか?地域性もあるので分かりません。ヒアリング・アンケートすれば原因が分かりそうなものですが・・・。
少子高齢化で読書人口は減り、かつ本を読まない傾向が増えてますから図書館ニーズは低いはず(下の文化庁調査より)。総需要が減っているのに、図書館造りたい気運が自治体に増えたのは「上品」を被ったハコモノ動機か功名心と思うのです・・・。)
●おわりに
武雄市についてはHPをFB化したことで知りましたが、その時の市長がツタヤ図書館を導入し、辞職後はCCC傘下企業に再就職しています。規制緩和の旗振り役・竹中平蔵氏が辞任後に人材派遣会社の役員になったことを思い出します。

ICT先進県と胸を張るならば、佐賀県は全市町に「県庁に報告するだけでなく市民のために図書館要覧を開示すべき」と指示してほしいですね。冒頭のリンク先で2011年以前はリンク切れだったり(その後修正)・・・不正アクセス高校生の稚拙さだけが目立ってます・・・

ツタヤへの指定管理料は5年間で5億5千万円。あと2年で契約更新を迎えます。本や雑誌が売れない時代、図書館の指定管理業務と言うのは本の流通業者にとって魅力的な新市場です。この辺りは週刊東洋経済(2016/7/23号)を。
●他の参考元
・図書館の自由と武雄市図書館と図書館戦争のようなもの
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分析興味深く拝見しました。
佐賀県内の公立図書館の統計は「佐賀県の生涯学習・社会教育」の図書館の項目の中で公開されています。私も、以前武雄市図書館のことを知りたくて武雄市のwebでは見つからなかったので、佐賀県の方を探して見つけました。
http://www.pref.saga.lg.jp/kiji00333875/index.html
投稿: はなかっぱ | 2016年7月25日 (月) 14時29分
はなかっぱ様の情報提供に深謝。
誰かがツイッターに上げたようでツイッター経由のアクセス多いです。
無い筈はないと思ったのですが、県には報告しても利用者の見えるところに開示しないのは、ヘンですね。
蔵書数が少し増えたので、回転率は微減となりました(表は更新)。
岡目八目で、公益と私益という双頭図書館の行く末は見ものです・・・
投稿: 管理人 | 2016年7月25日 (月) 16時33分
さて、ツタヤ館化後の「利用者数」は、果たして図書館部分のみの「利用者数」でしょうか? ツタヤ館は、蔦屋書店、CCCがライセンスを受けて出店しているスタバとしてCCCに差し出している部分、そして図書館部分を区別なくカウントしています。
よって、ツタヤ館化前と以後では「利用者」の定義が異なるため、本記事で「利用者数」が比較可能であるという前提が成立しません。
したがって、この記事の算数は成立しません。
投稿: Chamiu | 2019年3月29日 (金) 12時54分
古い記事に今頃何かなと思いきや・・・
非図書館を含めた利用者数など使っていませんよ。誤解していませんか。
自治体の図書館要覧などを見ると良いです。
投稿: 私役所 | 2019年3月29日 (金) 21時50分