老人喰いが終わらない社会の病
奪われる前に与えていれば、こんなことにはならなかった。

鉄道人身事故や特殊サギのニュースは日常化してしまい、不感症になってますが、それでもNHKの首都圏ニュースでは連日、詐欺被害を伝えています。金額が少ない事件は報じていないのでは、と思うくらい被害額が大きいです。
「これだけ注意しているのに、騙される人が後を絶たないな」と、(まだ)被害にあっていない人は呆れるだけで、関心も無くスルーしてしまいます…

この本はオレオレ詐欺(振り込め詐欺)の犯罪者側の生態を取材して物語風に書かれています。この犯罪が組織化されているのは前から報じられていましたが、その階層や詐欺師(プレイヤー)を養成する研修風景や稼業に入ってくる若者達の生態や生い立ちなどの人間模様を描いている所がリアルです。
組織は、金主(きんしゅ。オーナーの事で株主に相当)、番頭(取締役社長)、複数の店舗(店長、プレイヤー)、一店舗はプレイヤー三人で一組となり三組位あるそうです。
その周辺に、名簿屋、道具屋(トバシSIMカード)、集金店舗(ウケ子を管理する組織)がサプライヤー見たいにいるとのこと。被害額565億(H26年)ですから、まさしく一大業界を成しています。図は警察庁より引用(クリックで拡大)。
手口は高度です。自分と親族の名前を知っている場合もあります。奴らは下見調査と称し、市役所や警察の名をかたって高齢者の情報を探ってから本番を仕掛けてきます。
著者は、老人喰いとは現代日本の階層社会、格差社会が生み出した犯罪であり、豊かな老人層と貧困若者層という両極の結果だと言うのです。そして、老人層はため込むのではなく、貧困若年層に対し「与え・育てる」ことをすべきと訴えます。それが冒頭のサブタイトルです。
誰でも今は騙されないと思っていても、あと10年20年もしたら、もうろくしたり単身者となるかもしれせん。その時に騙されないという保証はありません。
電話機の前に、『電話でおカネの話しは、全部サギ』と貼り紙しておくしかありませんね。
著者の想いが強く脈打つ物語風に書かれているので、クールなルポルタージュとは違って読み易さを損なっているなという読後感があります。
良書ですが、同じように社会の暗部へのルポでもっと衝撃を受けたのは下の本です。最近の凄惨な事件もありましたから、そちらを先にお勧めします。
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