いすゞの買収_UDトラックスの行方
地方都市にも訪れるグローバル競争の波
若い頃、「アメリカがクシャミをしたら、日本は風邪をひく」と言われたものです。今、「中国が肺炎になったら、日本は何んと喩える?」。これは経済の話です。
前記事の続き いすゞ自動車のプレスリリースでは、2020年末までに子会社化する。
いすゞ自動車は”エルフ”で有名な中小型トラックに強く、上尾市にあるUDトラックスは大型専業です。業界統計(大中型貨物車2019暦年・販売台数)による国内の4大トラックメーカーで、UDはシェア11%と最下位ですが、買収によりいすゞが国内シェア1位となります。
買収対象にはUDの子会社も含まれるらしいですが、今のUDは非上場なので業績の詳細は分かりません。
しかし、地域での存在感は大きいです。上尾市の産業別生産額では、輸送用機械製造業が2033億円でダントツ一位(たぶんB自転車も含む。データはresasの2013年より)。
また、埼玉県は狭山市と寄居町にホンダ、上尾市にUDというように完成車メーカーがあるため自動車関連企業が多く、県の製造業出荷額の約二割といわれます。なお、ホンダは23年までに狭山工場を閉鎖して寄居に集約します。狭山市はショックですが、寄居町の方は東武東上線が新駅まで作る歓迎ぶりです。
今回は"日産ディーゼル"にとっては二度目の買収劇です。職場が他社に売られるという立場を体験しないと、その不安感は理解できないものですが、外資よりも日本企業の方が良いのではと想像します。ところで、2006-07年にかけて、ルノーと資本関係にあったボルボに売却したのはカルロス・ゴーン日産社長です。当時の彼は英雄でしたが、タイミングが悪く2008年はリーマンショックの大不況でした。
今回の提携には日産自動車は無関係ですが、あのゴーン氏は今は逃亡者。日産はというとリーマンショック以来の11年ぶり赤字です(※)。そして、今まさにコロナウィルスによる世界経済の停滞が危ぶまれます。巡り合わせが悪い感じです。
※第3四半期だけの赤字ですが、もっと大きな損失があるとの報道もあり、昔のニッサンに戻った感じです。ゴーンさん戻ってきて、と言われかねません。
今度のいすゞとボルボの提携は次世代の自動運転技術といすゞの大型トラックの強化と言いますが、UD買収を巡ってはもやもやしています。
いすゞの株価は発表日は上げ、翌日には下落です。
ボルボとの資本提携にまで踏み込めていないこと、UD買収の2500億円に割高感があると目されています。「ボルボにUDを押し付けられた印象」というアナリストの言葉を日本経済新聞は伝えます。
ネットで見られた古い有価証券報告書です。
日産ディ | UD | 参考 いすゞ | |
連結(百万円) | 2007/3(h19 | 2009/12(h21 | 2019/3(h31 |
売 上 高 | 466,288 | 246,440 | 2,149,168 |
営業利益 | 26,146 | -19,231 | 176,78 |
経常利益 | 25,270 | -21,188 | 189,001 |
自己資本比率 | 27% | 17% | 43.6% |
国内シェア |
16.1% |
15.6% |
リーマンショック前の好況(実質、日産ディーゼル時代)と直後の大不況期の業績です。売上高4660億円、経常利益も250億円と好調です。収益性はやや低いものの、このボリューム感は地域経済では圧巻の存在です。なお、2009年の大不況では売上が三割・四割下落は珍しくなく、赤字は仕方ありません。派遣切りが吹き荒れた頃です。
しかし、それから10年。中国経済の急拡大とアメリカの景気で、過去最高益を出した製造業がたくさん出ました。その多くは海外売上が国内販売を上回ったはずです。
ところが、UDの決算公告(2018/12)は驚くような数字です。
売上高2565億円、営業利益11億円、経常利益▲6.7億円、純利益29億円。そして700億円近い累積損失を抱えて、純資産は111億円、同比率は3.3%です。
官報用の簡素な単体決算ですが、B/Sの流動比率44%というあまりの低さは、短期資金に依存せざるを得ない資金繰りのきつさを想像させます。理由は、販売不振が前から続いているのではと思います。
P/Lは、40億円の税効果会計により赤字から最終黒へ切り替わっています。これは期間損益を適正表現するための会計手法ですが、恣意性があるために自己資本のかさ上げにも使われます。不正でなくても、利益操作として銀行等で使われた例もあります。一般論では、積みあがった繰延税金資産の回収可能性が疑われ、それが否認されたら・・・という流れです。
M&Aですから、今後のいすゞによるデューデリジェンス(価値査定)を同社株主が気にします。
前回のボルボへの売却が「アジア市場での拡販が目標」であれば、国内シェアすら落ちているのですから成果が出ているとは見えません。今回の提携で、ボルボは「UDの譲渡は営業利益を20億クローナ(約230億円)押し上げる」と公表しており、いすゞ側との温度差が伝わります(日経記事による)。そもそも日産からの買収は安かったとも言われています。
ボルボの乗用車は安全性のみ追及の地味な「箱型ワゴン」でした。最近はかっこ良いデザインになり、目にする機会も増えましたが、その乗用車部門は昔に分離され、今は中国資本のものです(UDのボルボとは違う)。
日本企業に入社したつもりが売却されて外資の経営や技術導入で十数年、慣れたと思った頃に国内ライバル企業に組み込まれるのですから、現場もマネジメントも翻弄されて大変です。それでもファンドに売却される事態ではない安心感はあります。しかし、親が日本企業だからと言って、温情的な経営でグローバル競争に勝てるはずもなく、UD内の価値ある資源は評価され、いすゞと重複するものはカットされるでしょう。特に派遣労働者は不安です。
機種移管のような再編成となれば地元経済への影響は大きいですが、ボルボ時代よりもグローバル化(アジア化)する可能性があると思います。
消費財では無いために地元民の支援買いは期待できません・・・。
ところで、2/7金に日本製鉄が呉製鉄所の閉鎖、和歌山製鉄所の高炉一基を休止するというニュースがありました。
もはや、この手のニュースに世間は関心を寄せませんが、当の呉市や広島県は突然のことに驚き、呉製鉄所は約3300人の雇用で影響が大きいと伝えます。しかし、前記事のデパート倒産もそうなのですが、行政に事前に伝えるなんてことはしません。事後報告です。働いている社員は予兆を感じとれますが、中高年になると見切りをつけての職探しは難しいものです。特に地方では。
こちらもグローバル市場での需要と供給の問題ですから似たようなものですが、気になったのは、閉鎖の呉製鉄所は日新製鋼から、縮小する和歌山製鉄所は住金から、旧新日鉄が業界再編成で吸収した工場だということです。
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日野のレンジャー、三菱のキャンター、いすゞのエルフは、学生の頃土木系のバイトでよく乗りました。助手席ですけど~w
働く車の御三家です。現在も良く拝見します。
しかし、UDのトラック?名前も出ない、姿も見ない、せめて上尾市にはと探してもいないのが現状ですね~
買収の先に未来はあるのでしょうか? いすゞの経営手腕に期待でしょ!
閉鎖してショッピングモール建設は勘弁してください~w
投稿: 丸山の青い彗星 | 2020年2月16日 (日) 09時11分
こんにちは。
数字の読み方さすがです。
コンサル業をされる方は、文学部卒の私とは違いますね。羨ましい。
現在、年度末決算で子会社の月次売上の期ズレ分析で苦労してます。
前年と県別の数か月の推移をみればわかるだろうと、厳しく上司から指導が・・・
元銀行員で東京駐在してた方と体育館で知り合い、年賀状交換をしていますが、
関連会社出向後、転職3回、今年65歳で、長野でコンサル会社を起業したとの
連絡がきました。空家になっている実家管理で単身生活が続いてとのことでした。
投稿: 本好き | 2020年2月16日 (日) 12時06分
UDのトラックで名前を知っているのは、コンドルとクオンですね。かつてはビッグ サムとかいうのもあったかと。
昔は日産系列としては、日産・日産ディーゼル(現UD)・スバルでしたが、時代の流れなど
でバラバラになってしまいましたね。かつては日デ通りには日産のディーラー4系列の店が
ありましたが、日産から離れて今は通りには日産の店は1店のみ。朝夕の日デ社員の通
勤車の日デ渋滞もありましたね。今は、ほとんど派遣社員だろうし、昔と比べて製造ライン
も機械化されてロボットが中心なのかな?鴻巣工場や群馬工場(太田)も無くなったし、
市内には社員倶楽部(富士見)とかグランドもありましたね。グランドはあのブロック塀
事件の場所ですね
投稿: 犬のしっぽ | 2020年2月17日 (月) 11時12分
自動車会社って他社の車で訪問すると門の中に入れさせない。守衛があっちあっちと指さして、外の離れた駐車場へ。ところが外車で行くとそうでもない・・・今でもそんなレベルかな?
さて、解散価値が110億円しかない資本金を喰ってる企業に、2500億円。簿外資産にどんなプレミアムが。又はボルボの「イイネ」!。
三代続けての大手資本下ではいつも頭は抑えられ、独立心は育ちようがない。今は、ソニーが車を開発したように自動車産業は大転換期。郷土愛で応援できる時代でもない。『四度目は無い』と腹をくくってほしい、と外野から。
せめて、同社に依存した政治家達は何か恩返しできるかな・・・
投稿: 管理人 | 2020年2月17日 (月) 23時36分