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2020年8月26日 (水)

反戦少年だった渡辺恒雄さん、軍国少年だった田原総一郎さん

死と向き合いながら青春を送った人々

ナベツネさんと愛称されつつも、読売新聞のドンとか政界フィクサーとか果ては老害とまで言われたりする渡辺恒雄さんへのインタビュー番組を見た。

8/9放送 NHKスペシャル「渡辺恒雄 戦争と政治~戦後日本の自画像~」

といっても途中から録画したので、”一番知りたいこと”が抜けてしまってガッカリした。

Photo_20200826003101

後日、NHKサイトを調べていたら、なんと三月にも渡辺さんの番組をBSで放送していたことを知って驚いた。コロナ勃発の頃だから気が付かなかったかもしれない。

3/7放送 BS1スペシャル「独占告白 渡辺恒雄~戦後政治はこうして作られた 昭和編」

読売新聞グループのトップ、渡辺恒雄氏(93)への独占インタビューが実現した。70年にわたって日本政治の実像を見つめ続けてきた渡辺氏。「昭和編」となる今回は、吉田茂政権から中曽根康弘政権に至るまで、その知られざる舞台裏が赤裸々に語られる。派閥の領袖たちの激しい権力闘争の虚実。日本外交の秘史。証言ドキュメントで戦後日本の歩みをたどる。インタビュアー・大越健介

 この3/7の昭和編の前半部が 実はネットにあったので見られたが 、違法だからいずれ消されるだろう。また後半ファイルは削除されているため見られないのでがっかりしていたら、なんと、今週末に再放送がある!
戦後政治史を学問ではなく生身のドラマとして関心のある人には必見だ。

再放送 NHK BS1 8月29日(土)午後4:00~午後5:50(110分)。

昭和編(前編)を見たら、渡辺さんへの先入観とは全く異なった印象となり、とても刺激的だった。そして、一番知りたかったのは、渡辺さんが復員後、東大で日本共産党のリーダーとして活動していたものの、そこから転身した理由は何かという事だった。

話しはそれるが、前記事に書いた産経新聞にも渡辺さんより前に似た道を歩んだ人がいた。産経と言えば鹿内家が有名だが、初代社長の水野成夫氏とは東大出の共産党員で赤旗の初代編集長だった。治安維持法で逮捕され激しい取り調べの果てに転向したというが、詳しい事はわからない。その後、紆余曲折を経て財界人にのし上り、マスコミ経営にも乗り出すという有能な人だった。

なお、産経新聞が右派論調に変わったのは、全国紙を目指した頃に経営不振となったための生き残り策と言われる。今でいえばニッチ戦略だ。

また、水野氏や渡辺氏だけでなく田原総一朗氏も似た過去を持っていて、近著「戦後日本政治の総括」を読んでいたので、余計にこの問題に関心があった。田原さんについては次記事に。

その渡辺さんの回答は、昭和編(前編)の中でハッキリと語られていた。

以下、部分抜粋 --- インタビュー初日・2019/11/22

●軍国主義への反発は中学の時から

「太平洋戦争が始まったのは 中学在学中ですよ」

「こんな真珠湾 『勝った勝った』と言うけど 『勝ち目ねえ』 と クラスで平気で言ったもんな」

「もう中学の時から 『絶対勝ち目のない戦争だ ばかげた戦争だ』とみんなクラスの中で言っていたね それをとがめる者はいなかったね」

●当時の高等学校(東京高校)は自由主義だったが、校長が軍国主義化を始めた・・・。

「それで どこかでやっつけてやろう それで一斉蜂起したわけだ ・・・・東校踊りの最中に皆で校長たちをぶん殴ったね」・・・・

「お国のためにこんな戦争は 早くやめなきゃいかんというのは信念だから」

「何言ったってだめですよ 忠君愛国なんて言ったて」

と、若い頃の反骨心を武勇伝の様に語っていたが、その後の話からも軍国主義への強い拒否感は一貫していた。

●1945年4月に東大文学部哲学科に入学

二か月後に召集。学徒出陣では竹下登、村山富市、司馬遼太郎、鶴田浩二らがいた。

相模原上陸作戦を要撃するための砲兵連隊の二等兵となったが理不尽な仕打ちにあったと。

「ひどいもんだよ 理由なしに引っ張り出して 兵営の後ろに それでビンビンってやるわけだ」

「理由ないんだ」

内実無き精神主義に戦前日本の病理を見たという。

「勝てるわけが無いわな・・・」

「僕は10センチ榴弾砲を使う砲兵だった 直径10センチの弾だ」

「その弾は木の弾なんだよね」・・・

「ところが最後まで 戦争終わるまで 配給なかったね 実弾は」

「そんな戦争で勝てるわけないよ」・・・

●そして終戦へ

「(ラジオで)天皇が何か言っているがね 何言っているか誰も分からない」

「東京駅でおりて、ジャンジャン鐘が鳴って、号外の鐘だよ」

「なんだ 終戦の大詔というのは ようするに負けたということじゃないか」

「それで万歳と思ったね こっちは これで助かったと思ったら ・・・

・・・だから栄養失調  ふらふらとなって歩けなくなったよ 東京駅で」

・・・シラミの話

「もうあの軍と言うのは 酷い処だよ とにかく何からかにまで」

・・・

「軍の横暴 独裁政治の悪さ 身にしてみ分かったわけだ」

大越 大きな渡辺さんと言う存在は 権力と密接不可分に我々は実は思っていたんです。

だけど今のお話しを聞くと 戦争体験から 実は独裁とか それによって導かれる戦争に対する反発心 反骨心が非常に強い。そこがアンビバレント(※)な思いをして聞いたんですが

※賛成(好意)と反対(嫌悪)を同時に持つような気持ち 

「あれだけ人を殺して 何百万人も殺して 日本中を 廃墟にした その連中の責任を問わなくて いい政治ができるわけない」

「戦争中から反戦だったんだから僕は」

「絶望の時代だったから 一生に一度あれを味わったらね 何も怖いものは無いね 今 この世の中で」

 ●東大に復学

 体制の抜本改革が必要だと考え、日本共産党に入党した。

「戦争中 天皇陛下のために死ねとか 天皇陛下万歳とか 日常茶飯事のようにやらされた」

「だから戦争終わって 生き残ったから 天皇制を倒さないといかん 真面目に考えていた」

終戦の暮れに代々木の共産党本部へ行き、やがて支部である東大細胞のトップになった。メンバーには氏家 齊一郎(後に日テレ社長)、堤清二(セゾン)ら。

「”党(員)は軍隊的鉄の規律を厳守せよ” と書いてあるのね 俺 軍隊嫌いだから ここにやって来たのに 共産党もこれまた軍隊かと思ったね

「台風が来た それで相当被害を受けて」

「そいう時に東大細胞の会議があって そこに中央委員が来て演説した」

「こういう災害で飢えれば 人民は目が覚める 共産主義者になれる」

「水もなくなる 食うものもなくなったとき 初めて飢え かつえた人民は 体制打倒のために立ち上がる」

「それが必要だと こういうことを言うんだな」

「それで僕は致命的に この共産党をでなきゃいかん 中にいたんじゃ どうにもならんと思ってね」

●東大新人会を作る

 “規律よりも個人の主体性を優先”として活動したら党本部と対立し、除名された。

しかし共産党の中の激しい経験から組織を動かす技術(集団指導技術)を学び、その後の人生で非常に役立ったという。

●新聞記者へ

哲学者を志していたが職業としては難しく 1950年24歳で読売新聞社に入社。以後、今日まで70年。

その後のインタビューは大野伴睦・自民党副総裁の懐刀になる過程や親しかった中曽根首相との関係などへと続いていく。

 


 とてもスケールの大きい方で、「主体的に考える」ということを重んじる人なのだが、気になるのは、今でも主筆と言う立場で社内の現役ということ。経営にはタッチしていないと思うが、論調のボス的な存在であるわけだ。それでは氏が一番嫌ってきた独裁的な組織体制や思想を統制するような在り方に通じないだろうかということ。

 インタビューの途中で、NHKの大越氏がアンビバレントな思いと言ったのは、渡辺さんの現在の保守的な姿勢と反戦的な強い姿勢の対比で言ったのかどうかは分からないが、言い得て妙だった。それに倣うと、渡辺さんの自由な思想性と主筆の座を譲らない姿にもアンビバレントな感じがするわけで、自分が嫌いだった天皇になっているように見えて残念だ。

もうOBでよいのでは。

参考 8/9放送後の大越健介の現場主義(NHKサイト)

 

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コメント

アンチ巨人時代、ナベツネさんを誤解していました。DeNAのベイスターズ球団買収にもナベツネさんが相当協力したという話は「黒子の流儀」春田真著(角川書店)に書かれている。大洋が球団を売却する際、読売グループがTBSに球団買収を持ちかけ、素人が球団を経営してはいけないという典型にした反省も感じられます。
著者はナベツネさんを近所に住んでいれば世間話をしたい感じの人と評している。
本当のワンマン経営者は三木谷ですね。ひどいね。そのうち楽天は球団売却するんじゃないか。野球人気が落ちてもっと広告効果のある手段がでてくれば。
楽天はDeNAの参入を妨害したようだ。
TBSのニュースを見て感じる人は多いと思うけど、ベイスターズへの肩入れは相当だ。
ほとんど縁はない(少しは球団の株をもっているかもしてないけど)が相当罪悪感を持ち続けていると思えます。

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