ウィル・スミス騒動とエスカレーション
本稿、敬称略。
日本映画の「ドライブマイカー」がアカデミー賞受賞という嬉しいニュースがあった。これって大手映画会社による作品でもなく、低予算の映画で、しかも海外での高い評判を得て国内でも多く上映され始めたらしいので、構造的には日本映画の未来が明るいわけでは無いようだ。
それと同時に、ウィル・スミスが司会者を殴った騒動が伝えられた。見た限りでは別に衝撃的では無かった。世界的イベントでの人気俳優だから大きなニュースになったのだろう。むしろ、スグ思い出したのは、昔、野崎昭如が大島渚監督を殴った件だ。野坂がパンチして眼鏡がすっ飛び、大島はマイクで反撃した殴り合いだ。そして・・・
もっとビックリしたのは、即座に(美しい)夫人が間に入り、"まぁまぁ、困った子ねー"と言わんばかりに笑顔で収めたことだ。経緯は二人の友情から来たものであり、奥さんが仲をとり納め、二人とも謝っているので、晴れ舞台での喧嘩としては日本の方がはるかに優れた作品になっている。
容姿を笑いのネタにし、平手打ちや罵詈雑言とはレベルが違うこの映像こそアカデミー委員に推奨すべきだと思った。そして日本の大手の映画作品もこのレベルにならないとな~、と思う。
で、ウィル・スミスの暴行をアメリカではどう見ているのかと思っていたら、Quoraの米国人弁護士がこう書いていた。
正当防衛の原則に米法では「相当する暴力」のみが正当とされ、過剰な暴力は正当性を持ちません。 ・言葉には言葉 ・非致死暴力(殴る、蹴る)には非致死暴力 ・致死暴力(刃物、銃)には致死暴力 が許されます。 |
日本は知らないが、さすがに合理的思考だなと感心した。本件は言葉でやり返す(怒鳴りつけるまでは許される)というもので、スミスには同情するが、やり過ぎてしまったようだ。
実は、今、ロシアとウクライナではこの究極が行われている。
闘いが日々エスカレーションし、ロシアは恫喝から始めて、本当にミサイルを千発も撃ち、とうとう無差別的な攻撃までしている。しかも戦況が不利になると、挽回のために生物化学兵器をシリア戦争のように使うと警戒される。
その次は小型の戦術核まで予想されている。誰も住んでいない所へ撃ち込み、ウクライナ側の戦意を喪失させる狙いというが、そうなるとアメリカも黙っていられないとする専門家もいる。その場合、ロシア領土へは撃てないのでベラルーシ辺りかもと言われるように、どんどんとエスカレートするわけだ。
そんな時、理解しがたいニュースがあった。
バイデン発言が内政干渉という反応
26日、バイデン大統領がポーランドを訪れた時に、プーチン大統領について「権力の座に残しておいてはいけない」と非難した。この発言が、ロシアの体制転換を求めたとも受け止められ、ロシア側は「バイデンが決めることではない」などと反発した。アメリカ内部でも批判が出たらしいとして「バイデンの失言」、「内政干渉」として日本でも何度も報じられた。
ロシアを恐れるポーランド国民の前で言ったことであり、内容は西側のホンネでありムリと分かっていても、そうあって欲しいと多くが思っていることだ。
プーチンがやっている事こそ究極の内政干渉である。ゼレンスキー政権をナチと呼び、(公言はしないが)打倒してから傀儡政権を作ろうとするのだから、バイデン発言を失言だと身内から批判するのは不思議だった。批判に理があるのは、これはアメリカ政権の目標や結論ではないという点だけであり、(原稿にない発言として)その点は即座に否定声明を出している。
これがトランプだったら、またバカ言っているという程度で取り合わないだろう。
要するに、侵略者にも清く正しく敵対しないとダメです、ということに拘り過ぎるのもどうなのかなと思った。これこそがリベラル側の持つ弱さではないかと感じたが、果たしてどうなんだろうか(共和党が批判しているのは党派的なものだと思う)。上の正当防衛論で言えば、致死暴力に暴言で対抗しても罪ではないだろう。
マクロン仏大統領は「・・・私ならそのようなことばは使わない」と言ったが、それは西側世界における役割分担(多様性)としての、頭の良いエリート発言だと思いたい。
そもそも、ロシアがこの発言でエスカレートはしないだろう。彼らは都合の良いプロバガンダを使い、無い事をある事にし、有ることを無い事にして正当化するのだから、相手発言の上げ足をとる必要は無い。
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