期待されるリフィル処方、定員割れ私大薬学部
前記事のつづき
成長の無い日本は社会保障費ばかりを気にしていれば良かったが、おそロシアのために安全保障つまり防衛費増額を巡る議論が避けられなくなった。もっとも金額では圧倒的に社会保障費がでかく、その内訳は年金と医療費が占める。
2020年度の医療費(速報値)は42.2兆円となり、前年から1兆4千億、減少率3.2%と過去最大に減った。受診控えとコロナ以外の感染症が減った効果である。この国民医療費とは保険診療となる費用の推計でありGDP比で約8%である。また、医療費全体に占める薬局調剤医療費は約18%だ。
週刊ダイヤモンド(2022.1/29)薬局淘汰の時代へ、という記事があった。前回書いた駅前出店が増えた背景や薬剤師合格率の低い近隣の日本薬科大学の名も出ていると思って読んでみた。ネットでも部分的に公開されていて、リードはとても刺激的である。
●2045年に薬剤師は最大で12.6万人過剰になる――。薬を提供する対物業務から、患者と関わる対人業務を重視せよ。・・・医師と同様に薬剤師にも卒後研修が必要では・・・。
●薬局の数がついに6万店を超えた。医薬分業の波に乗り、病院の前に乱立する薬局。そんな増え過ぎた薬局にメスを入れるべく、・・・・薬局の“選別”を促す施策が次々と打ち出されている。
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「中医協は診療報酬の配分を巡り、医師と薬剤師が争う場だ」と辛らつに書き、どうも薬局の未来は明るくない。
許認可の規制が低いために薬局が増え、コンビニやガソリンスタンド、郵便局よりも多くなっている。薬局の最低ラインは日常生活圏域に一つ以上という見方があるらしく、それは中学校区の範囲らしい。中学校は約1万なので、約13000店が最低ラインとあったが、かなり乱暴な見方である。
かつて院内処方が主だった時代、病院と同じ組織が薬を出せば出すほど儲かった。仕入と薬価との差額が儲けとなり、それが薬漬け医療という問題になった。1974年に院外処方を導入し、普及させるために調剤報酬を大幅引き上げたという。その医薬分業という国策で急成長したのが、病院の前に店を構える門前薬局である。
門前薬局は、近くの医療機関向けの薬に特化して在庫を揃えるために経営効率が良い。その結果、門前経営で荒稼ぎするチェーン店が台頭し、立地産業になっていた。記事には、薬局から医師へのキックバックもあったと書いてある。
その後、医療費削減の流れの中で、処方箋が同一医療機関に過度に集中していると儲かりにくくした。集中率が75%を超すと調剤技術料が42点から26点に減ったり、門前店でチェーン化して85%超すと更に減点になるようだ。背景には地域の零細薬局を守る面もありそうに思う。
・受診控えで処方箋枚数が激減し、耳鼻科・小児科が苦戦
2020年度の処方箋枚数は9.3%減、調剤医療費は2.7%減の7.5兆円という。とくに、耳鼻科・小児科の近くにある門前薬局、オフィス街のクリニック近くの薬局が苦戦なのだと。昔、仕事で接した耳鼻科医から「うちは駄菓子屋みたいなもの」と聞いたことがあったので良く分かる。
儲かりやすいのは(処方が多い)内科医の近くらしい。ただし、受診回数が減っても、一枚当たりの薬が長期間分となり、一枚当たり調剤費は9857円と前年より7%も増え、まとめ買い効果が出ている。そして今、台頭しているのはドラッグストアの調剤事業である。
スギ薬局の2021年決算をみる。売上高6000億円の二割が調剤事業であるが、調剤は物販よりも儲かるから粗利率は39%と高く、物販27%の比ではない。処方箋の一枚当たり単価(調剤売上÷枚数一千万枚)は11600円もある。あの紙きれがこんなに稼ぐとは!。
決算資料には、枚数の伸びは受診控えで鈍化しつつも、「⻑期処⽅、高額処⽅の増加により、処⽅箋単価は前年⽐935円上昇」と書き、年間100店増のペースで増収増益である。客が広いエリアから来るドラッグストアは処方箋が集中しないため、前述した集中率では抑制できない。
また最近は、医療モール開発にも積極的。ドラッグストアと調剤薬局を集客の核テナントにして、複数のクリニックを誘致するわけだ。新規の開業医にとっては開業リスクが減るためにWin-Winになる。ショッピングセンターのテナント誘致でもミニ医療モールは定石化している。
・医療費を減らすリフィル処方箋に期待
薬だけ欲しくても診察が前提だから、再診料や外来管理加算などの点数が算定されて医者の収益になる。しかし、症状が安定している慢性疾患者にはムダな診察費になる。リフィル処方とは、一度発行された処方箋を一定期間で何度も再利用して通院しないで薬を受け取れる制度だ。Refillは補充という意味で、欧米では当たり前らしい。
受診回数が減るため医師会は反対したが、この4月からスタートしたらしい。例えば、一回30日分出していた所を、30日×3回まで可能とするようなものらしい。生活習慣病を扱う内科医は嫌がるが医療費抑制になる。
参考 「リフィル処方箋」について
・薬局の経営環境の未来は明るくない。それは薬剤師に影響する
覆面座談会で、病院内のヒエラルキーを医者、看護師、臨床検査技師、薬剤師と語っていた。患者と接する度合いみたいだが、6年生大学卒なのに意外と地位が低いのに驚く。
薬剤師の年収は高くない。調剤薬局での一般薬剤師の年収(20年)は一店舗のみの企業で529万円、20店舗以上だと461万円という。一段高い管理薬剤師になると20店以上持つ会社では650万円、2~5店舗だと776万円、なんと一店舗のみの薬局だと849万円である。
管理者になるまで勤続すれば良いが、そのポストの空きは限られるだろう。一方、薬剤師集めに熱心なのがドラッグストアで、年収は1~2割増えるが物販もするのため勤務はきついという。薬学部の授業料が年200万円とすると総額1200万円になる。オール奨学金としても教育投資に見合うのか疑問だ。給与が良い医薬品メーカーへの就職は、入れるのは一割以下で一流大学に限られる。
企業規模が小さいほど、或いは地方の方が年収が高くなり、他の業界とは反対になっているのが不思議だ。トップ山口県の780万円に対して東京都で508万円と差が開くのは、求人の需給関係と地方では大手のシェアが低いためという。
・薬学部の“人気低下”が止まらない
6年制になる前の2002年度の薬学部定員は8200人。これが20年度は1万1602人と約1.4倍も増えている。定員増を当て込んだ参入があったのだ。しかし、21年度の私大薬学部の志願者は6万7717人で7年連続減。なんと7年間で4割以上も減ったという。
そしてとうとう、厚労省の有識者会議が「学生の質の維持に課題がある大学が存在する」と警鐘を鳴らした。ダイヤモンド誌は「三つの指標」を基に、全国の私立大学薬学部を対象に「淘汰危険度」ランキングを作った
二位の千葉科学大学は加計学園、どの値も50%を切り将来性に疑問が付く。
このうち定員充足率(左から二つ目の値)を見ると、100%以下という定員割れは既に一般的なのだ。また、国家試験合格率(右端の値)は出口の成果である。合格すれば低偏差値大学というレッテルは無関係になり、良い意味での学歴ロンダリングになるが、合格率が低いのに定員がそこそこ高い理由はよく考えるべきだろう。
合格率を上げるために安易に受験させない大学もある。また、現役で合格しなかった人は卒業後に国家試験を受けるが、その合格率はもっと低いと思う。なお、図の赤枠は都築学園という同じルーツの大学である。
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