専守防衛というハンディキャプ戦争-4
前記事のつづき(ゼレンスキー大統領)
プーチンは大将戦でも負けた
四月半ば、プーチンはキエフ攻略を諦めて東・南部へ戦力集中を命じたが戦果はでていない。よって、戦勝記念日の演説は西側が騒いだほどの内容は無かった。むしろ驚いたのは、同日のブレジンスキー大統領の演説ビデオの方だった。
支持者に囲まれるでも無く、ひっそりとしたキーウ市内を独りで歩きながら演説していた。足もとに目をやるでもなく、周囲を見るでもなく、ずーっとカメラ目線で歩いて演説した。
よく事件現場で、テレビレポーターが歩きながら中継することがあるが、数十秒ほどだったり、視線は現場の方を向いたするものだ。(編集が入っていたとしても)なかなか真似のできないプレゼンであり、この日もリーダー像としてはプーチンの負けだ、と思った。
●ウクライナ軍は兵力が少ないのが弱点
先日、第二の都市ハリキウ(ハリコフ)周辺からロシア軍を追い出したらしい。ウ軍はキーウ防衛戦で勝ち、ロシアが兵を引いたことで、主力部隊をハリキウに集中させた効果だろう。ロ軍は東部と南部にまで戦線を広く展開しているが、ウ軍はそこまで対峙できないから東と南の奪還はゆっくりだ。
マリウポリの製鉄所地下に籠城するアゾフ隊をいつまでも救援できないのは兵力不足のためだろう。一方、ロ軍の作戦の混乱や士気の低さとか命令無視は前から伝えられている。そこで、気になったのは、
●ロシア軍の死者は貧しい地方から来た若者
BBCニュース・ロシア語が伝えるロシア死亡兵の属性分析だ。公式発表や地元メディア報道、SNS、ロシア軍人の親族への聞き取りをもとに2336人の死亡を確認し、名前や階級、所属部隊も分かったという。人数はロ国防省の3月発表の2倍という。
通信面の問題があるためか約二割が将校だという。犠牲者の25%は偵察や襲撃に投入される空挺部隊であった。そして、死者の多くはロシア国内で経済が困窮する地域の出身者であり、モスクワはロシア人口の9%を占めるが、同市出身の死亡は3人しかいないという。つまり、弾の当たる最前線に行くのは貧しい地方出身者というわけだ。
貧しさと無知が戦争の燃料になり、暖をとるのは都市の人間や既得権益者というのは昔から変わらないが、肝心のモスクワ市民がそれに気づくまでは戦争は終わらないだろう。帰還する棺が増えるのをみてロシア国内から厭戦気分が生まれるしかない、と思っていたら、日曜の毎日新聞Webにトンデモナイ記事がでた。
ロシアで「クーデター計画進行中」というがソースはウクライナ諜報機関だ。丸でスポーツ新聞並である。
●違和感の多い戦争に見えた理由とは
宣戦布告の無い『戦争』になっている。プーチンが「特別軍事作戦」という名称に拘るのは国内向けだけではなく、戦争じゃないから宣戦布告は必要ないし、戦争犯罪にも該当しないというレトリックなのだろう。
この戦争を見ていて一番、奇異なのは、ロシアはウクライナ領土を好き放題に破壊できるが、ウクライナ軍はロシア領土へ攻め込めないことだ。理由の一つはウクライナはロシアが嫌いでも戦争を仕掛けたいわけでは無いという基本姿勢がある。そしてもう一つは、侵攻したらロシアに核を使う口実を与えてしまうためだ。
この自国領土内でのみ闘うスタイルが専守防衛なのだと、元自衛隊トップが開戦以来語っていた。先日も別な元幹部が語っていた。相手の兵站基地を叩けないから、
ロシアは本土がやられないから何波でも攻めてくる(TBS・BS)
つまり戦況がロシアに傾けば、キエフを再び攻めることになる。
陸続きの戦争と核の有無という面があるが、専守防衛とはまさしくハンディキャップ戦争である。だから核を使わせないで勝つ方法しかないという難しい戦い方になる。きっと、長期戦に持ち込むしかないのだろう。一気にウ軍が勝とうとするとプーチンに核使用の動機を与えるかもしれない。その辺りは、アメリカが日々観測と分析をしているハズだ。
そして日本は、今まで想定していた専守防衛の本当の姿を見せつけられ、アップデートすべき「現実」に来たのかもしれない。その第一段階が参院選になる。
いよいよ議論を避けるのが通用しなくなってきた。上記の番組は質の高い内容でYouTubeにもある。
つづく
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