関連 1 突然の閉園、2 世の理不尽
結論を先に書くと、一回目の感想が確信へ近づいた感じ。
社会福祉法人の決算書は企業会計とは異なり家計簿に近い。元は「収支」と表現しているが、以下ではあえて「損益」と言い換えた。 紅花保育園拠点区分 事業活動計算書より 電子開示システムより
単位 百万円 |
2015 |
2016 |
2017 |
2018 |
2019 |
2020 |
2021 |
A サービス活動収益計 |
107 |
110 |
116 |
117 |
114 |
117 |
120 |
人件費 |
85 |
85 |
93 |
93 |
95 |
98 |
89 |
人件費比率 |
80% |
77% |
80% |
79% |
83% |
83% |
74% |
B サービス活動増減差額 |
-3 |
0 |
-4 |
-2 |
-13 |
-9 |
5 |
C 次期繰越活動増減差額 |
-30 |
-32 |
-39 |
-42 |
-58 |
-64 |
-57 |
7年間の損益報告から基本項目のみ拾った。売上Aは1億1千万円台で横ばい。人件費比率は80±3%で推移する。企業の営業利益にあたるBは黒字が2回のみ。また、以前からの累損Cは膨らみ▲5720万円となった。
こうも冴えないのはBの水準が低いためだ。企業でも、この本業の赤字が続くと問題ありとなる。人件費総額(給料以外も含む)は増加傾向にあったが、去年の大幅削減が黒字化の要因だ。なお役員の報酬・退職金はゼロ(定款に無報酬とある)。また、決算書には人数情報はない。
・気になる 2019年に赤字が一千万円も増えたこと
非常勤と派遣や業務委託費などで790万円も増え、人事労務に大きな変化があったようだ。しかも、この年は初めからマイナス予算(資金繰り)を組んでいた。
後で書いているが、人件費比率の平均は76%なので、80%は高めだ。それは、入所数の減少によるものか、人件費が高いのかのどちらかだ。後者なら、職員数が多いか(評判は良くなる)、構成が硬直的(正規職のみ)か、年齢が高い等だが、その辺りは分からない。
・21年に黒字化(利益率4%)した人件費の変化
人件費が1割(900万円)減った効果だ。報じられた(年末?)大量解雇の内容は不明だが、正職員の給料・賞与が1割減(520万円)、派遣職員費で6割減(480万円)である。ただし非常勤職員費は増えた(350万円)。業務委託のカットもした。
この人件費削減は、固定費(=給料)の一部を変動費化したように見えるが、流通業のパートとは違い、有資格者の非正規化はシフトなどの労務管理を難しくする。また、資金繰り予算が空欄なのも意欲の低下を感じた。
想像するに、"方針変更"の結果が離職を招き、大きな人件費減になったものの、埋め合わせで派遣を使わざるを得なかっただけでは。つまり計画的ではなく混乱していたように思う。
B/Sもみたけど
取引型経営では無いから負債は少ない。有利子負債も無いから無借金経営なので負債による倒産リスクは無い。棚卸資産も売上債権も負債も無いから、B/Sの右側は純資産が96%と異様。
累損5700万円はやや資本欠損ぎみだが、それは出資者の継続意欲の有無次第だろう。なお、初めから無借金経営だったのかは分からない。また、施設建設等でもらう国庫補助金積立金も少なかった。
ちなみに赤字決算続きでも運営できるのは、赤字額が減価償却費よりも少ないためだ。月末の給料支払さえ回れば良いのだが、以前2千万円あった手元資金が今は半分である。ここで現金を積み増すには借入や出資が必要だが、それには、資金の出し手に将来展望を語れないとムリ。
なお、一般企業でも、賞与月には一時的に借入をすることがあるので、去年、遅配にした原因は気になる。
他園はどうかと思い、一つだけ「さつき保育園」を見た。収益規模は似ていたが、薄利ながらも黒字の年が多かった。累積も黒だった。人件費比率は80%と似ていた。ただし設備用の借入をしていた。
配置基準 保育士一人につき子供何人まで
0歳児 |
3人 |
1~2歳 |
6人 |
3歳児 |
20人 |
4歳児以上 |
30人 |
配置基準により、少ない職員で多く預かって儲けることはできない。子供の数×保育料(保護者負担+補助金)が収益の元になるが、今はほぼ公費負担となり、債権回収の心配もない。
無償化政策は施設の形態や年齢で複雑なので分からないが、たぶん人件費を賄えるようになっていると思う。だから、子供数と保育士数(コスト)のバランスを保てることが経営のコツだろう。それは、全国調査からも見えた。
厚労省の全国調査を見ると ※1
私立保育園の全体平均では収支差320万円と黒字である。下の定員区分別でも全て黒字であり、定員が140人あたりにスケールメリット感がありそう。紅花は定員90人。
ここで、子供一人当りの年間収益(保育収益÷人数)を求めたら、90人弱だと一人140万円だった。なんと、私立高校よりも、文系の私立大学よりも高い。
参考 一人当たりでは小学生に88万円、中学生に105万円の税が使われる。
以前の親負担額(所得で異なる)は分からないが、無償化とは大きな分配政策なのだ。なお、送迎費、食材料費、行事費などは自己負担のままらしいが、年額としてはわずか。
利益率は2%前後と低いため、定員を少し割ると赤字になりそう。表には省略したが、⑥の人数は定員よりも0~4人多いだけだ。 実は、十年前の古い2013年の調査が見られ、利益率は4%台と二倍も高いが、定員より1割位多めに抱えていた。つまり、近年は、定員を僅か上回る程度にしか集められず、それがギリギリの経営になっているのかもしれない。
保育士の年収と保育士不足
「良い園」と言う評判を得るには多めの正職員が必要であり、ギリギリ(或いは若い人)で回すと利益は出やすいが、負荷の高い職場となり、評判や職員定着率にマイナスとなりやすい。
表の月額を12倍すると、勤続十年の保育士の年収は355万円。これだと、一人減らしただけで黒字化したり、非常勤に置き換える動機にかられそうだ。
そして今は、少子化なのに保育士不足だという。重労働の割に給与が低いが理由らしい。辞める人が多くて、それを埋めるはずの資格学校を卒業した半数が就かないらしい。だからなのか、求人倍率は二倍と他職より高い。
小学校の先生で20代後半が年収452万円とすると保育士は79%レベル。年中、年長、一年生と連続することを考えると、待遇差が狭まっても良さそうだ。人手不足でも給料が低いままなのは原資が公費負担だからと思う。国が支援するか少しは受益者負担を追加するしか無いだろう。
今は、少子化だけど無償化で預ける子供が増えたり、国の後押しで保育所増加もある。そうすると需給が崩れたエリアも生まれる。そうなると、どの程度の定員割れに耐えられるかが問われる。それを一般に不況抵抗力と呼び、トントンとなる稼働水準が高い経営を腰高経営と呼ぶ。この業界では、入所数÷定員という充足率が指標になりそうだ。
今後、定員割れした園と定員増の園同士で余剰職員を融通できる仕組みがあれば地域的に安定するだろう。ドクターXならぬティーチャーXだ。派遣業者がやっているはずだが、そこを公が介在することはムリなのか…。
結局
新聞が伝えた理事長発言、「保育士不足によって子どもの安全を保証できなくなった」は決算書にも伺えた。そして、たてば友愛会は桃寿苑(50室)も持っている。保育園の三年後に始めており、こちらも赤字事業だった。では、どちらを撤退するかとなれば、少子化の先細り事業よりも、需要のある老人施設を選ぶかも。そちらの建物の償却もだいぶ進んでいたな。
以上は個人の推測です。
おわり。
※1 令和元年度「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」 e-StatにはExcel表がある。これは無料化前の2018年度のものである。財政情報はない。
参考 民間の平均年収は441万円 2018年
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