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2023年5月21日 (日)

ふるさと&寄付で繕う日本

最大の罪は、日本に寄付文化を根付かなくしたこと

多くの自治体が寄付額と件数しか発表しないのは、世間がそこしか注目しないからだ。一方、国は、寄付額-直接費(返礼品コストや送料)-事務費までの収支公開している。その方がマシなのだが、まだまだ不十分。本当は、他へ流出した地方税分までも引いた実質収支が必要だ。(※当方が勝手につけた名前)

 ふるさと納税に関する現況調査結果より。2021年度は8302億円と過去最高だった。22年は更に増えるはず。なお、利用者は740万人の12.5%であった(こちら)。

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  • 上位10自治体の寄付額
    件数 金額・億円 平均・円
1 紋別市 1,105,051 153 13,843
2 都城市 695,351 146 21,020
3 根室市 774,308 146 18,861
4 白糠町 827,301 125 15,136
5 泉佐野市 894,137 113 12,690
6 都農町 562,727 109 19,450
7 洲本市 583,982 78 13,429
8 敦賀市 445,917 77 17,317
9 富士吉田市 266,946 72 27,024
10 飯塚市 574,043 66 11,435

 実は、20位までの合計額が全体の20%を占める。つまり全自治体の1.1%に二割が集中なのだ。なお埼玉県のランキングは次記事にした。

 ふるさと納税を巡るニュースは毎度キリがない・・・

  • 「減額は適法」という二審敗訴の泉佐野市

つい先日、ニュースがでたばかり。泉佐野市はAmazonギフト券まで付けて全国からカネを集めまくり19年には185億円に達した。そんなやり方するならと、国は地方交付税を減らしたので裁判になり、市が一審勝訴していた。なお、同市は2008~21年まで1005億も集めて累計日本一である。

  • 捕まる公務員もでた

『町職員になってから時間を持て余してきた。ふるさと納税はやりがいがあった』

返礼品業者から9千万円の賄賂で逮捕された奈半利町の課長の告白は素直な説得力がある。上司や両親まで起訴されただけでなく、返礼品の価格を安く偽って国に報告したため、町は指定取り消し一号にまでなった。多くの寄付を集めたこの人を「エース職員」と呼び、口を挟む人はいなかったとあるが、(捕まらなくても)この程度をエースと呼ぶのだから本当に暇な職場らしい。

  • お得が溢れて負担が見えない

 ふるさと納税は、住んでいる自治体に納める税を、寄付金と返礼品を介して、他自治体に移転するものだ。国は、「経済的利益の無償の供与」であると建前を語るが国民も自治体もそうは考えない。

第1式 2000 円 < 返礼品の価値 < 寄附額-仕入と事務費

 自己負担2000 円を上回る返礼品が貰えるという経済的合理性が働くから寄付とは名ばかりになる。もちろん(自治体との)出自に関係はない※。一方の自治体は、コストとの差額が収入になるから、多く集めようと返礼品を競う。かくして、ふるさと納税の指南本やWebには「お得」の文字が溢れている。

 ※最近の赤ん坊の産地は8人に一人が東京都であり、ふるさとは東京と答える人が圧倒的になる(東京圏なら3人に一人)。

 また、返礼品業者は(たぶん)値引き販売しないため利幅が大きい。取引のインフラを請け負うサイト運営者(ほぼネット通販)は掲載料・仲介料ビジネスであり、低リスクでうま味がある。だから、年末が近づくと、中身などお構いなしにサイト名を連呼するCMが増える。

 話しは変わるが、かつて景気対策というと道路やハコモノであり、それをゼネコンが担ってきた。今はソフトな事業が増え、IT系や派遣型企業に国家予算が回る。大手ではパソナとかリクルート、電通などの名がよく出てくる。

 しかし、純粋な市場原理が働くわけではない官製市場なので、こんなうまい話が成り立つわけは無い。誰かが負担をしないと帳尻が合わない。それは、税の流出超過(赤字)となる自治体(=住民)と赤字の75%を補てんする国庫(=国民)である。しかし、間接的な痛みでは感じにくく、「ふるさと」や「寄付」という美しい言葉で継続する。

 ちなみに、見返りの無い純粋な寄付をして税控除される仕組みは昔からあるのに話題になることはない。改めて、タイガーマスクはエライ。

第2式 (寄付額-仕入と事務費)-流出した地方税=実質収支

第3式 実質収支+国からの交付金(流出した地方税のX%)・・・一般に75%だが地方交付税の無い豊かな自治体は0

●やり過ぎ自治体

 長野県伊那市はパナソニックの4Kテレビや掃除機、オリンパスのカメラなどを返礼品にし、2016年に72億円も荒稼ぎした。下請けや部品メーカーがあるだけで返礼品に入れたらしい。そして、品物の時価÷寄付額で求める返礼率(還元率とも呼ぶ)が高く設定された高額品であり、かつ換金性もあるから人気がでた。

 しかし、返礼率を3割以下の地場産品という総務省の通達で全滅となり18年には一億円レベルまで落ちた。寄付した人達が応援していたわけでは無いことは、言うまでもない。今の伊那市の家電はこのていど。

●牛肉と焼酎で集める都城市

 東洋経済の20年度調べは、都城市は寄付額135億円で全国1位で、控除額まで引いた実質収支は+70億円である。人口16万人の同市は、R5年一般会計予算書をみると968億円にふるさと納税140億円を計上する。なお、昔からある純粋な寄付金は1しかない。つまり千円という意味だ。

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 使い道の最多は子供支援に67億円とあるが、主な中身は、保育料無償化約7億円、中学生以下の医療費無料化6億円などで、この程度なら他市でもやっていそうだ・・・

 本制度は、自治体間の競争を促す面もあるが、魅力ある特産品がないと、かえって(税流出で)赤字になる。だから、反対論が増えないように流出した75%を国が損失補てんする。なんだかマッチポンプみたいであり、これでは本気になれない。かと言って、金額が少ないとランキングが公表されるのでカッコウが悪い。

 毎日新聞(21/12/17)によると、20年度の純粋な赤字は471自治体あり3大都市圏に集中する。一方、黒字は北海道418億円、鹿児島190億円、宮崎187億円に多い。これだけ見ると、都市から地方に所得移転されてイイじゃんとなるが、前述したように、少数の自治体に多く集まる歪みがある。既に、製造業が海外移転して少ない日本だから、贅沢食品をウリにするが、今後はサービス消費のコトを増やす必要があるのだろう。

  • やられっぱなしで怒る世田谷区

 税金が流出する上位は、横浜市230億円、名古屋市143億、大阪市123億、川崎市102億、世田谷区83億、さいたま市73億と続く。

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 特に、(豊かな)世田谷区は交付税無しなので75%補てんが無い。だから、毎年、国に怒る。小学校なら2校改築できる規模だと嘆いていた。そして広報せたがやで区民に訴え、見返りのない寄付(用途は指定)を求めるが、グラフの青棒で分かるように反応はつれない。

 そりゃそうだ。たった2千円で十倍・百倍も価値あるモノが得られるのだから、行動経済学を持ち出すまでもない。応援感情よりも損得勘定なのだ。そして、こんなにインセンティブが高くても寄付と呼ぶのだから、ふざけた話だ。日本社会に寄付文化が根付かないわけである。

 それを分かっていながら、官も民も美しい言葉で繕うのが最近の日本だ。古い喩えだと、タコ足配当だよね (>_<)

しかし、奪われっぱなしではマズいので、東京都の23区の逆襲が始まり、ホンキでカタログ商戦に参入するらしい。ジュエリーとか資生堂パーラーの食事券など、あか抜けた差別化で勝負するらしい。

追記 7/9 毎日新聞 交付税で補されない世田谷区の流出が深刻だ。23年度は97億円と予想し、100億円突破は時間の問題。魅力ある特産品が無い所は都市でも地方でもマイナスになる。

つづく

 

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