カテゴリー「戦争・安全保障」の13件の記事

2023年6月24日 (土)

ワグネルがロストフ市を占拠、ショイグ国防相と対決へ

プルゴジンの戦略はロシアのウクライナ南部補給路を人質にして交渉か?

追記 あり  参考 CNN

 最前線のしかもロシア国内事情なので正確さを検証することが難しいが、ワグネルが反乱軍的な行動に出たのはロシアも認めている。外電も打っている。

ワグナー司令官、駐屯地への攻撃で「膨大な数」の戦闘員を殺害したとしてロシア軍指導部を非難

以前から、弾薬をよこさないことを不満に発信していたが、最近、ロシア軍がワグネルを攻撃して多数の死者を出したことでプルゴジンの怒りは頂点に達した。

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CNN  ワグナー私設軍事グループのトップ、エフゲニー・プリゴジンは、ロシア軍指導部がワグナー軍事キャンプを襲撃し、「膨大な数」の傭兵部隊を殺害したと非難した。

ショイグに恨みを持つ兵は多いと思われる。プルゴジンは、ショイグが悪い、プーチンは騙されているという論法だ。きっと、国防大臣に責任を取らせたいのだろう。

既にロシア南部のロストフ市をワグネル軍が占拠したということがSNSで多数アップされている。

 

ワグネル軍は、経験豊富なエリート兵(元空挺部隊やスペッツナズ)の5-6千人と3万前後の囚人兵からなるという。報道では25000人が動いている。

この市はウクライナ南部のロシア占領地域への補給路の要衝なのだと。

ロシアの正規軍はウクライナに展開しているので、ワグネルを排除する力が国内に残っているのか分からないとも言われる。

ここで数週間も膠着したら、補給不能となり、ロシアのウクライナ戦争全体が根本的に崩れる、と期待的な予想がされる。

ただプルゴジンはプーチンを非難しない、そこが微妙だ。

まるで昔の戦国時代並みである、

ロシアって国は。


追記1

ロイター ワグネルの武装蜂起は「反逆」だと、プーチンが緊急演説

 プーチンの態度がはっきりした。ブルゴジンはどう出るか分からないが、プーチンは内にも敵を作った。さらなるロシアの混迷となれば、ウクライナ大規模反撃の初戦低迷を挽回できるかも。

追記2 ワグネル軍を止めるため、チェチェン共和国の軍隊が派遣された(モスクワタイムス)。ロシア軍は手薄なためだが、カディロフというどうしようもない集団だ。プーチンはモスクワ離脱した。砂利を積んだダンプ隊列がバリケードのつもりだろう。既にチェ軍はロフトフ市に到着したので、傭兵軍団との闘い開始か。

追記3 ワグネルが進軍停止、プリゴジン氏は出国へ
 不問に付すで一件落着するようだが、独裁国家でそれをすることは明らかな弱体化。次が出るのでは。

 

2023年2月20日 (月)

小泉悠氏インタビュー。この戦争と日本を語る

前記事のつづき…「ウクライナ戦争/小泉悠」

ロシアの侵略が始まって一年のタイミングなので、暫くはマスコミが特集を組みそうです。

本日、小泉悠氏がこの戦争を平易に語っていました。

日経新聞のインタビューは記事が少しなので、23分の動画の方がお勧め。非会員でもOK。

最後は日本の今とこれからについて語ります。

ウクライナ侵攻、小泉悠氏「国家間戦争の脅威を可視化」


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2023年2月19日 (日)

テレビで人気の小泉悠氏・ウクライナ戦争、読後

日本人は考えていないと警告する

ウクライナ戦争・ちくま新書 小泉 悠

 「池田小事件」のように殺人事件は「地名や被害者(属性)+罪名」で呼ぶことが多い。その調子で戦争に名前を付けるのは危険だ。書名は出版社が付けるが、”ウクライナ戦争”とは酷い。ネットでは宇露戦争と表現する人もいたが、それでは、どっちもどっちになる。その点、英字新聞は見事だ。

Russia's Invasion of Ukraine、Russia’s War in Ukraine

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本書は、テレビでお馴染みのロシアと軍事の専門家、小泉悠氏の最新作だ。去年春の「ロシア点描・・・」はロシア事情を知るには良いが、戦争までは語れず物足りなかったので待望の書となった。

国内でプーチンの戦争を解説できる人は限られるが、小泉氏は「右や左のメディアから人気がある」と以前、東野篤子・筑波大教授がつぶやいていた(自分はハッキリ言うから煙たがれたと自嘲的に)。当節、早口で冗舌なコメンテーターが多い中、小泉氏は学者らしくない語り口で問題を易しく説き、聞いて腑に落ちることが多い。

プーチンが本気で戦争を始めるはずはなく、ブラフと信じていたのは世界の殆ど、自分もプーチンが戦争を始めるとは思わなかったと正直に書く。内容は時系列的で、ロシアの主張にも疑問や反証をする。この戦争を過去の流れから総括的に理解するには良い本であるが、なにせ字が小さい…。

  • 一番気になる「核使用の可能性」は

・去年、使うなら低出力の戦術核と言われたが、専門家の意見として、戦術核の配備状況と使用基準が透明化されていないと敵国に脅しとして通用せず、当節言われるのは曖昧な概念でしかないという。また、本当に戦局を転換させるために使うには、何発も必要となるから更に可能性は低く、NATOの直接介入を恐れるという。

エスカレーション抑止は機能するか 継戦によるデメリットよりも停戦するメリットを選ばせるための、「加減された損害」を与える限定核使用では、米国の長崎・広島にやったロシア版として、まだ被害が少ない都市(オデーサ等)への核攻撃を取り上げる。

しかし、そうしたロシアのエスカレーション抑止の核使用へは、既にアメリカが原潜からの核ミサイルで同程度の都市被害を与えるという戦略を採用済みなので、このケースも低いと言う。

他の核使用シナリオもあるが、心理戦の域を出ないという。結局、ブーチンが核使用に踏み切れないのは、西側も武器支援を様子見ながらの小出しにしているのと同じで、核エスカレーションの先にある恐怖だ。

ただし、ロシアには限定核使用の思想も準備もあるのだから、プーチンの頭が西側と同じになるとは限らないとクギを刺す。それでも、「この戦争は大国間の戦略抑止が機能する状況下で行われる、核戦争に及ばない範囲であらゆる能力を駆使する戦争だ」とまとめる。実際、西側は戦況を見ながら、攻撃的な武器を小出しに送っている。

 どうする日本。

 本書の終りに小泉氏の問題提起がある。

・この戦争は古い戦争である。

 今の報道でも、ネットやドローン、ハイマース等々でハイテク戦争みたいに伝わるが、現実に戦局を左右したのはウクライナ国民の抗戦意志や火力の多寡という古典的要素だという。実際、砲弾の跡だらけの市街や平原、住宅の地下室、泥だらけの塹壕戦の姿をみるとそれは頷ける。こうした「古い戦争」への備えは、日本の抑止力の議論にお いても重要な論点だという。 

・逃れられない核の呪縛

 欧米もロシアは、それぞれが持つ核戦力への恐怖をもっており、核の恐怖は究極の抑止力として働いている。では日本はどうする。仮想敵国(中・北・ロ)全てが核保有国である日本にとって、他人事ではない。米国の拡大抑止(=核の傘)にあるため侵略される蓋然性は低いが、安全保障を持たない台湾はウクライナとよく似た状況にある。

 もし台湾有事なら、日本は今のポーランドみたいに被侵略国へ軍事援助を提供する基地になる可能性がある。それは中国からの核恫喝を受けることを意味するから、国民的な議論が必要なのに、いまだ議論されない。このままだと将来の軍事的危機に明確な国民的合意がないままにずるずる巻き込まれるのではないか

 ・主体的な議論の必要性

第一義的な責任はロシアにある。動機がなんであれ、一方的な暴力の行使に及んだ側であることには変わりない。そして、戦闘が停止されればそれで「解決」と いう態度はありえない。

日本が戦争に巻き込まれたらそのまま跳ね返ってくる問題なので、我が事として捉え、大国の侵略が成功したという事例を残さないように努力すべきだ。軍事援助は難しくとも、難民への生活支援、都市再建、地雷除去など、できることは多い。
 去年6月、NATOは「戦略概念」を12年ぶりに改訂した。「欧州・大西洋空間はもはや安全で はない」という情勢認識であり、これはインド太平洋空間にも当てはまる。

 巨大な戦争は、歴史教科書だけの存在ではなく、日本が巻き込まれないために何をしておくべきかを今から検討すべきだ。もちろん、その事実に対して日本がどうすべきであるのかは別の問題である。非武装中立から現状維持、さらには核武装中立に至るまで、オプションは無数にある(ちなみに筆者はそれらのいずれにも同意しない)。だが、今の日本はそれらを天秤にかけて検討しぬいていない。

 と終わる。残念ながら、日本の現実は防衛の中身よりも、カネの負担が嫌だと言うレベルで止まったままだ。

なお本書は、リクエストで新規購入した本である。


  • おそロシアを利用する政治屋

森元首相は、「プーチン大統領だけが批判され、ゼレンスキー大統領は何も叱られないのはどういうことか。ゼレンスキーは多くのウクライナ人たちを苦しめている」と言った。小林節教授が真っ向批判。※1

鈴木宗男議員は、『・・・「武器をくれ、時間がない」とウ大統領は声高に訴えるが、ならば自前で戦えない以上、戦いを止めることが筋であり・・・』とブログに書く。彼らに共通するのは、どっぷり浸かったロシアとのしがらみだ。

 先日、囚人が片足を失い帰国し、勲章をもらたというロシアニュースを見た。

服役中の殺人犯が隣国へ行って人を殺せば英雄扱いなのだ。それに文句あるなら自分の息子を戦場へ送れと言う。そして、殺人犯よりも恐ろしいナチが、我々を攻めるからだと被害妄想的に煽り、全体主義の歴史が長かった大衆はそれに従う。また、残酷な戦争犯罪の数々をフェイク報道だとトランプ風に言うのは、プーチンが元々、欺くことを任務としてたからだろう。

戦争は勝ちさえすればイイ、と確信しているはず。上記本のAmazon感想で「なぜ侵攻したか」が書いてないとケチを付けた人がいたが、そんな事はクレムリン内部でも分からない。仮に、プーチンの口から理由を聞かされて、知ることはできても、理解はできない。

そもそも合理的判断では無いからだ。個人的にはプーチン(軍事大国の独裁者)の被害妄想だと思う。だから周辺国の離反が相次ぐ。

※1 森喜朗発言「ロシアが負けることはない」という嘘

※2 日経 ウクライナ支援「生活に悪影響生じても」7割

2022年9月29日 (木)

リマンで一万人のロシア軍を包囲か

併合を急ぐプーチン。その一角を早くも崩すウクライナ軍。

 八月ごろから、ウクライナ軍はSNSでの戦況情報を控えている。以前は、ひっきりなしに写真や動画を発信し、欧米の兵器が届いたとかをわざわざ公開していた。その後、ゼレンスキーは不用意に発信するなと呼び掛けていた。

 守勢から攻勢に転じているからだろう。

 さて、先週末から、アメリカ人※1で日本向けに戦況解説する人によると、また大きな戦果が生まれそうだ。

9月初めに、ウ軍は奇襲攻撃で東部ハリコフ州の要衝イジュームを奪還した後、さらに南と東へ進軍し、ロシアの防衛ラインを突破し、昨日にはリマンという要衝の町で約一万のロシア軍を包囲したようだ。最終的にはルガンスク州周辺の北部を奪還するためらしい。



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ウ軍は16~18旅団(6~7万の兵)、対してロシア軍は9旅団、それも多くが戦力を失っていて兵数は半減した部隊もあると見られ、兵力は2対1で数的優位。少し前までは、ウ軍は重火器の数が足りないと言われていたが、イジューム方面での露軍からの鹵獲は莫大で、戦車457両、装甲車1380台、大砲54門等と言われる。

露軍の補給路と退路を遮断したため、あと数日から1週間でリマンのロシア軍(約一万らしい)は投降せざるを得ない、という見方がでた。一方、プーチンは先日、投降したら最高十年の懲役刑、と弾が飛んでこないクレムリンで言っていた。投降するかは分からないが、相当な被害が出るだろう。

プーチンは明日には併合宣言するようだが、本当の戦況がロシア国内にどう伝わるのだろうか。ロシアから逃げ出す若者のニュースを見るが、受入国も受け入れをきつくするとか、ロシアも国境封鎖に近いことするかもしれない。

そもそも、国境を連ねる西側国は、既にウクライナ避難民を大量に受け入れており、ロシアからの兵役逃亡者を喜んで歓迎するだろうか。お前の国が隣国を破壊して殺しているのだから、逃げるな、国内で抵抗運動すべきだ、というのがホンネでは無いだろうか。(追記 国外脱出や兵役で人手が奪われて国内経済マイナスは戦費調達に不利)

ちなみに、こうしたアメリカ人の戦況解説は、米軍やウクライナ軍の報道やSNS、衛星写真やロシアの軍事ブロガーなどの情報を総合的に分析している戦争研究所AEIのレポートがベースになっている。なお、シンクタンクは寄付などで運営されている所がアメリカ的だ。

そうした専門レポートはネットで誰でも見られるのだが、正しく理解するにはGoogle翻訳ではムリ。だから、英語力の弱さに嫌悪しつつも、いかにムダな英語教育をやってきたかと、文科省を呪いたい・・・。蛇足だが、韓国が国際化しているのは英語力があるからだ。

参考

※1 Quora rem ogaki氏

戦争研究所

アメリカン エンタープライズ インスティテュート

日本の英語力は“韓国以下”の78位へ転落 37位の韓国、49位の中国

 

2022年7月 3日 (日)

日本核武装の勧め。エマニュエル・トッド-3

日本は核を持つべきだ。

1-責任はアメリカ 2-共同体家族 

日本の核武装に関する部分の引用(文藝春秋5月号)。

当面は、日本の安全保障に日米同盟は不可欠であるが、アメリカはどこまで信頼できるのか、という疑いを拭えない以上、日本は核を持つべき。

日本が核を持つことは以前から提案してきた。

日本では核はセンシティブな問題だと認識している。フランスもそうであるように、ナショナリズムの表明でもパワーゲームでの力の誇示でもない。むしろパワーゲームの外に自らを置くことを可能にするもの。

同盟から抜け、真の自立を得るための手段である。核を持つことは国家として自立すること。核をもたないことは、他国の思想や時々の状況という偶然に身を任せることです。

日本が核を持つことは米国から自立することで、世界にとっても望ましいこと。

ウクライナ危機は歴史的な意味がある。WW2後、始めてロシアのような大国が通常戦を行ったからだ。つまり通常戦に歯止めをかける核であるはずなのに、核を持つことで通常戦が可能になった。これを受け、中国が同じような行動に出ないとも限らない。

日本で核シェアリングが議論されているが、核共有は全くナンセンスだ。核の傘も幻想だ。使えば自分の国も攻撃を受けるリスクのある核兵器は原理的に他国のためには使えないのだ。中国や北朝鮮に米国を狙える核能力があれば米国が使って日本守ることはない。

広島と長崎は、米国だけが核を持っていた時代の悲劇である。核の不均衡はそれ自体が不安定要因となる。だから日本の核保有はむしろ地域の安定化になる。日本も対ロ制裁に加わっているが。台頭する中国と  を取るためには、日本はロシアを必要とするという地政学的条件に変わりはない。

ロシアが許せないとしても、米国を喜ばせるために多少の制裁に加わって、ロシアと良好な関係を持つことは日本の国益に適う。長期的に見て国益はどこにあるかを見失うな。

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 日本の核武装については、「日本がウクライナになる日」で取り上げたように実現性は低い。日本人の核アレルギーは被爆国のためだが、被爆国で無かったらどうなったのか?

そこは分からない。また、アメリカの核の傘にいながら非核を唱えても海外への説得力は弱いだろう。

とりあえず、ロシアはまだ大量破壊兵器を使ってこない。その点は、欧米側の抑止力が働いていると解釈できるのかもしれない。ただ小型核であっても使ってしまうと、核の抑止力は無いということになり、世界の核戦略は一気に転換してしまう。

 

参考 日経ビジネスの「日本はウクライナ戦争から抜け出せ」

この記事では、日本はウクライナから遠く、かかわる必要は無い。NATO加盟国でもないから、日本が取るべき立場は、中立国ではないか、と呼び掛ける。

"日本の読者の皆さんによく理解してほしいのは、ポーランドやリトアニア、ベラルーシ、ウクライナなどこの辺りの地域は、世界大戦中に最もひどい出来事が起きた地域です。Bloodlands(流血地帯)と米国人が呼んだ場所です。ソ連軍とドイツ軍が衝突したり、ユダヤ人たちが多く虐殺されたりしたのもこの地域でした。
 この地域は18世紀からそうなのです。ですから、この地域圏というのはとてもリスクが高、非常に危ないことが多く起きる地域です。なので、日本はここに入り込んできてはいけないと私は思うわけです。なぜ、日本が血なまぐさいこのような地域に関わらないといけないのでしょうか。ぜひここからは遠のいてほしいと思います。"
 
 

 

 

2022年7月 2日 (土)

共同体家族社会ロシアに相応しい権力者。トッド-2

ロシアは国家の再建に成功したとか、その行動は合理的だと?

前記事-1のつづき

・トッド氏  西側はプーチンがロシア帝国復活を目指して更に侵攻すると言うが、ロシアがこれ以上、新たな領土を奪うとは私には思えない。自国の領土の保全だけで手一杯だから。

 その通りだと思う。

 NATOへ逃げた国を取り戻すことはムリだから未加入国を阻止したい。ロシア系住民と呼応して武装支援により独立させる。その結果、世界から未承認の国がウクライナ周辺には複数ある。

 モルドバから分離した沿ドニエストル共和国、08年にはジョージアにおけるアブハジア南オセチアの2国。14年はウクライナからのクリミアを、今回はドネツクとルガンスクの二つを併合したい。オデーサにつながるヘルソン州まで奪われたら、ウクライナの解体である。

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 いずれも東欧の最貧国だが、併合する地域には重工業があるらしい。こうした「ミニ・ソ連」を作りたい動機は、大国意識の回復やソ連解体への恨みなのだろう。

 しかし理解しがたいのは、主権侵害とは言っても占領したい地域の人の多くは親ロシア人であることだ。先日、BSの海外放送で、ウ軍に避難を求められた住民が反発する様子があった。破壊はウ軍の仕業だと思っている。こうした住民が多数の地域を統治するのは難しい。

 結局、ロシア人の多いクリミアを取り戻すのはムリでは無いかと思う。素人考えだが、ウクライナはもっと前に条件闘争をすれば良かったと思う。こうした捻じれは、ロシアが大勝してもウクライナ人を統治できないのと同じである。

 一国内に複数の民族や宗教があるのは珍しくなく、政情不安になる国も多い(特にアフリカ)。中国はウィグル族に同化政策を強制する。先進国では、英国からスコットランドが独立したがっている。スペインのバスク地方の過激な分離独立運動は有名だ。

 そうと分かっていたから、ロシアから遠い国ほどさっさとNATOへ逃げ、ロシア系が多く住むロシアに近い国ほど一つにまとまれない矛盾をロシアから突かれて紛争を作ってしまう。紛争当事国になればNATO側は「加盟お断り」がホンネだろう。

トッド氏はさらっと書いていた。「ソ連崩壊の時にやっておけば良いことを今になってやっている」。あの時、無血革命だったことが奇跡的なのだろう。 

・トッド氏 ソ連崩壊後、ロシアは国家の再建に成功したが、ウクライナは30年以上経ってもできないでいる

 ウクライナはその通りみたいだ。コメディアンが大統領にならざるを得ないほど腐敗が進んでいたらしい。ロシアが周辺国よりも優位なのは、天然資源によるもので、農業依存のウクライナとの差は大きい。しかし、議会や選挙があっても敵対候補が暗殺されるような国が再建と言えるだろうか。国の予算で食べている公務員が多く、民主主義に飢えているとも見えない。

 また、このハンディキャップ戦争(相手国首都を攻撃するが、核を背景に自国領土を攻撃させない戦い方)を平気で支持する国民が多い理由についてはどう解釈すべきなのだろうか。私的には、情報弱者でも無知でもなく、権力に従順する共産主義を経験したからだと思っていたが、むしろ逆らしい。その点は家族システムとして文末に。

参考 ウクライナでの破壊等について(ロシア人の)あなたに道義的な責任があるか。

 ・まったくない 58%
 ・ある程度ある 25%
 ・完全にある  11%  (朝日記事より)

 最近、ウクライナはEU加盟の候補国に認められたが、精神的な支援に過ぎないのではと思う。経済同盟には損得が働くから、最貧国の加入を快く思わない国もいるだろう。

・トッド氏 ロシアは一定の戦略で動き、合理的で暴力的である。欧州は卑怯だが半ば予測可能、しかしウクライナは軍と大統領のどちらが率いているか分からない。ゼレンスキーは、次に狙われるのはあなたがただと欧州を戦争に引き込もうと必死だ。また「ロシアの外交や指導層は歴史的な認識レベルが高い」と評価する。

 本当だろうか?。「ロシアは西側がこれほど反発するとは予想外、ウクライナ社会の抵抗力も見誤った」とも書いているのでロシアが合理的とはへんだ。議会制民主主義なら議論を尽くすことで意思決定が合理的になりやすい。しかし、20年間の独裁者は合理性よりも情緒を重んじるだろう。むしろ予測不能であると言いたい。

 典型は、ウクライナのNATO入りを防ぐための侵攻が、ドイツは軍事費増額へ、北欧2ヶ国はNATOに入る方が安全だと転換した。おかげで、ロシアは長い防衛ラインを維持しなくてはならない。こうして周りからどう思われるかにお構いなしなのを独りよがりという。まさに不合理の極み。

 追記 旧東欧国は支援としてウクライナへ互換性のある旧ソ連兵器を送った。そのため、手持ち分を以前は考えられなかった企保で最新型へ更新し、対ロ攻撃力が増している。

 そして予測可能性が低いのはアメリカだと指摘している。トランプによる混乱のためなのかは分からないが、日本の自立を促し、核武装もその延長の一つとして提案する。

つづく 3へ

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  • トッド氏ならではの家族システムの話はユニークだった。

家族システムで言えば、ロシアは共同体家族社会(結婚後も親と同居、親子関係は権威主義的、兄弟は平等)だ。そして集団行動を得意とするから共産主義を受け入れられた。プーチンは狂った独裁者ではなく、こうした社会にふさわしい権力者なのだ。

しかし、ウクライナは核家族社会(結婚したら親から独立)である。それは英米仏のような自由民主主義的な国家に見られるシステムだ。しかし、民主主義は強い国家なしには機能しない。個人主義だけではアナーキーになる。

問題は、ウクライナに国家が存在しないこと。・・・・ ピラミッド型社会のロシア人からすると。 自分勝手でアナーキーでポーランド人みたいだ。と・・・・

 

 

戦争の責任はアメリカとNATO。エマニュエルトッド-1

責任はNATOと米にある。

 文藝春秋 5月号にエマニュアルトッド氏の意見がのった。タイトルの「日本核武装」は出版社によるもので、後半に少しあるだけだ。主な内容はウクライナの戦争についてである。

 長くなるので三つに感想記を分けた・・・。

 プーチンは四カ月も侵略戦争を続けている。平坦なドンバス地方での正面戦になってからウクライナ軍はロシアの火力に圧倒され奪還が進まない。砲数が10分の1とも伝えられ、それで良く耐えているのが不思議なくらいだ。

 長引くとどちらが有利か?

 ロシアは電撃的な制圧を目指していたから、長期化は不利とみられていた。しかし、価格高騰をもたらすように資源大国への経済制裁は遅効的だ。果たして西側は、この冬の寒さとインフレに耐えられるだろうか、というロシアとの我慢比べになっている(原発再稼働かも)。

 エマニュエル・トッド氏は人口や家族類型から歴史と文化を語る学者で、ソ連崩壊、トランプ台頭、イギリスEU離脱などを言い当てた知識人としても有名だ。

 しかし、この戦争について語るのは初めてだと言う。本国フランスでは、「私はシャルリ」運動の時のようにメディアが冷静でないためらしい。以前、自分は社会(同調圧力)に抗う血筋と言っていたので意外だった。なお日経ビジネスでも類似のインタビュー記事がある(日本の核は文藝春秋のみ)。

 トッド氏の見解は大局的でクールだから新鮮である。

 例えば、去年コロナについて、『これは高齢者ではなく若者を壊した病気だ』と喝破した。


『冷たい分析のように聞こえるかもしれませんが、これが歴史の観点がさせる分析の仕方です。高齢者は重症化し、死亡するリスクが高い。では、それが影響を与えるのかというと、高齢者なので人口全体の構造への影響はほとんどないのです』。

『この危機によって犠牲を払わないといけないのは若者です。若い人たちが外出できず、自由に出歩けないでいる。このことで、彼らはこれから何十年という単位で影響を受けることになるでしょう』。(Forbesより)

 51zrjzum8fl_sx311_bo1204203200_  こんなスケールで言える人いないから、全く持って感心する。以下は文藝と日経を読んでの感想記だが、ナント、先週に本が出ていた。二誌は日本向けのプロモーションを兼ねていたのかも。「第三次世界大戦はもう始まっている」

 

 アメリカの学者の意見を引用しつつ、責任はアメリカとNATOにある、ロシアとアメリカ・NATOの戦争だと断言し、ウクライナに武器を与えて戦場にしたアメリカに怒りを覚えるとまで批判する。

 しかし、どうにも腑に落ちない前提が多いのだ・・・。

トッド氏。戦争の原因は「ウクライナのNATO入りは絶対許さない」というロシアの再三の警告を無視したためだ。ウクライナが(武器支援で)強くなる前にクリミアとドンバスの奪還を目指した。

 まず独立国の安全保障政策は自由であり、そこへの軍事介入は主権侵害だと言うのが国連の立場だ。03年の米のイラン侵攻を引き合いにしたロシア擁護論もあるが、あの時のほうが賛成国は多かった(多いから侵攻してよいとは言えないが)。

 今回のロシア賛成は5つの独裁国家のみだ

参考 地域グループごとの表決(賛成-反対-棄権-無投票)

アフリカ    : 28-1-17-8
アジア太平洋:      37-2-13-2
東欧        19-2-1-1
ラテンアメリカ・カリブ海: 28-0-4-1
西欧・その他    29-0-0-0

 なお、アフリカの半分26ヶ国がロシア非難を避けた。その理由については、「ロシアはアフリカの真の独立支援をした」と主張するマルクス学者の意見よりも、軍事企業による支援と恨みに乗じた情報戦の成果だと分析する白戸・立命館教授の方がクールである。貧乏国でも国連では対等な一票になる、という外交成果なのだろう。

 米の戦争と比べてもロシアの攻撃はタガが外れている。なぜ、ウクライナの議事堂や大統領府を爆撃せずに商業施設や学校、病院や高層住宅へミサイルを撃つのか。西側には理解できない戦術だ。当初は命中精度が6割というニュースがあり、そのためと思っていたが、そうではない。

 小泉悠氏や高橋氏は、国家を象徴する建物は民間よりも優れているという彼らの価値観だ、と推測していた。隠れ場所が無い位まで街を壊すのがロシアの戦術である。

つづく

 

 

2022年6月14日 (火)

日本がウクライナになる日

夜郎自大の帝国マインドとは言い得て妙だ!

河東哲夫 著・元在ロシア大使、CCCメディアハウス 

Photo_20220614174001ロシアを見てきた元外交官がプーチンの侵略戦争と日本の今後を多面的に解説した本。データで説く本では無く、豊富な外交官キャリアを元に語る感じ。読みやすいが、急いで書き下ろした感もある。

 日本はロシアと領土問題を抱えているが、この戦争からは地理的にも遠いため、国内報道は外電の孫引きが多い。そしてリアリティにも欠ける。そこで、日本語サイトではニューズウィーク日本版を見ることがある。最大の影響国アメリカの専門家の意見は多様な見方の一つとして意味がある。元CIA分析官の寄稿もあったりする。

 本書は同誌のコラムニスト・河東哲夫氏によるものだ。日本向けは最終章「日本をウクライナにしないために」が提言となる。つまり、タイトルとは真逆である。これは出版社の「売らんかな」の危機感商法だろう。

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 著者は、ロシアを夜郎自大の帝国マインドを持つと批判する!

 ロシアはアメリカと同格であらねばという考えが強く、その根拠にはアメリカを破壊できる ICBM をたくさん持っているからだという(約6000発)。この戦争はロシアが帝国復活を作して失敗するという崩壊のダメ押しになりかねない。アメリカは、ウクライナが弱ければ東西の緩衝地帯で良しとし、もしウクライナが強ければバイデンは強気に出ると指摘する。

 ロシアはアメリカも今まで武力侵攻してきたと言うが、アメリカは他者の権利を守るために介入する例が多く、ロシアは自分の利益のために侵攻する。だから多くの国がアメリカを支持するが、ロシアの侵攻を支持する国は少ないという。

 中国のことも書いている。中国が台湾を制圧すると、在日米軍基地を脅かせるから、金がかかってもアメリカは基地を日本以外へ移すだろう。だから、日本は自主防衛のための防衛力を整備することは当たり前だと説く。

 その中国を、自他共に過大評価の国だと指摘するが、その点はやや違和感がある。ロシアは軍事力で他国を脅かすだけで経済支援ができないから嫌われる。一方、中国は経済力で他国を懐柔して軍事基地化する。汚いけれど後進国には巧みなのだ。中国の技術はまだ西側の模倣でも、東洋人には努力気質があるから、いずれ西側に追いつく分野が増える。さらに、ロシアよりも国内の情報統制は強固である。

 日本については、連日の戦争報道により日本の呑気な時代は終わったから憲法改正・核武装などの安全保障を現実問題として考えろ、と言うのも文切り型で思考停止だと書く。先ずはタブーを取り外して考えろと説く。例えば同盟関係では、有事に仲間を助けるという義務に背くとその国は世界史に残るほど信用を失うが、トランプのような内向き人間が出てくれば、日米同盟で必ず日本を守ってくれるというわけではない、と警告する。

  • 核武装をどうするか

北朝鮮、中国、ロシアの核ミサイルを抑止する方法の議論が必要であり、非核三原則を「見ざる聞かざる言わざる」と同じだと嘆き、法律ではないから変更可能だと言う。しかし、幾つかの理由をあげて日本は核兵器を作れないし、アメリカも認めないという。

ならば次は核シェアリング検討となるが、米軍の核を国内に置くことを国会で決めても、地方自治体が大反対するから無人島に置くぐらいだろう。或いは、アメリカ原潜の核ミサイルの共同使用も複雑な話になるので無理という。

結局、日本が核武装できるシナリオは思いつかないと書く。

だから、相手国が核を使う脅しをかけてきても気にしないガッツを持つか、相手のミサイルを確実に落とすレーザー兵器などを開発するしか選択肢はないだろうと・・・この辺りは物足りない話になっている。

また、日本人の安全保障観はひどく捻れている、戦争反対と叫んでいれば人間としての義務を果たしたような気分でいるのだろうと批判するが、一つ同意できるのは、「日本人には軍事についての基本的な感覚がない」という指摘だ。だからこの機会に防衛のイロハの学習をすべきと言う。確かに、核にせよ防衛方法にせよ、議論してはいけないというのも思考停止である。

著者のコラムはこちら。外交官の万華鏡

親ロシアあるいは宥和的な人

 いろんな専門家がいるものだが、日本にも親ロシア的な態度をとる人が少なからずいる。参議員の鈴木宗男氏は有名。元外交官の東郷和彦氏もたまにテレビにでるが、彼の場合は口下手なために意味不明だ。

 嫌ロシアばかりになるのは危険なので宥和的な人も必要だが、ホンネが既得権益だったりすることもあるから、ロシアで飯を食っている人には要注意だ。

でも、この間に一番呆れたのは安倍晋三である。27回もプーチンと会って飯を食いながら成果は無かった。今更、「プーチンは力の信奉者」だと批判して、防衛費拡大や核共有を現職総理へ口出ししている。どうにも便乗商法的で、そのずるさは相変わらずだなと思う。

27回も会談した理由は単純だ。首脳会談の場合はNHKや新聞が毎回トップニュース扱いするからだ。ニコニコと会談する姿を、「やってます感」満々に宣伝される。NHKは岩田とか言う女性記者が提灯解説をするわけで、まさに、「プロバガンダに騙されるな」である(本書の帯)。

文春 プーチンに媚びた面々 安倍、森、鈴木、鳩山

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2022年6月 1日 (水)

ウクライナ報道と防衛研・高橋杉雄氏

平和ボケ日本では日陰者だった?軍事研究者 

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 三か月も経つと日本でのニュース価値は下がってきたらしく、誤振込騒動や沈没船つり上げ失敗の方が話題になっていた。

開戦から四月までのテレビは、ウクライナの被害の酷さとロシア軍の残酷さ、それにめげないウクライナ軍の健闘を伝えていた。

そして、テレビに出る解説者と言えば、ロシア政治や歴史文化を専門とする大学教授ばかりだった。でも、彼らの話しは平和な時の知識であり、生臭い戦争中には役立たない。しかも、テレビ局が特派員を送れないため、内容は欧米のネット報道から半日や一日遅れだった。ネットを使えば、NYT、CNN、日本語版で少し遅れるがCNN日本語BBCジャパンなどの方が役立つ。それは今でも変わりないが、BS-TBSの報道1930も専門的でイイ。

しかし解説者には大きな進歩が起きた。防衛庁のシンクタンクである防衛研究所の専門家が出てきた。NHKは部長の兵頭慎治氏を、民放では室長の高橋杉雄氏、山添 博史氏らが引っ張りだこ。ジャーナリストでは朝日の駒木明義氏が優れている。

結局、防衛庁から招かねば戦況解説ができないということは、日本では民間はおろか大学でも軍事研究は不人気な分野だと言うことが良く分かる。なお、高橋氏のツイッターアカウントは開戦頃なので、組織的にプレゼンスを高めようとしたかも知れない。

 日の当たらなかった防衛研を世間に知らしめたことになるが、その辺りをリベラル系のジャーナリストがケチをつけていたが嫉妬みたいだった。理路整然としつつ、思想性を出さないようにしているから人気があるのだろう。そして、とうとう昨日『ウクライナ戦争の衝撃』という本まで刊行した。混雑してアクセスできない・・・

彼らの戦況解説は欧米のニュースサイトやSNS、専門家どうしの人脈をベースにしていると思う。特に、アメリカのシンクタンクの戦争研究所(ISW)のレポートは重要視される。ISWは毎日、長文レポートを出している。Google自動翻訳で読めるが、社会系とは違う文章なので、意外とうまく翻訳されている印象だ。

ウクライナ軍は遠距離砲撃の射程と火力数で劣勢 

5月中旬から戦況が変わった。ロ軍は戦線拡大をやめてドンバス集中へと戦略を変えたことで数的優位になった。ウ軍は、マリウポリの地下部隊を救出できなかったように兵力不足に不安があるようだ。

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ロ軍が東部ドンバスに集中したこと、地理的に川を挟んでウ軍には補給線が保てないことが不利らしい。そして何よりも戦い方が変わったという。

戦車と歩兵の戦いなら数Km内の接近戦だが、その外側から射程数十Kmの大砲の撃ち合いをしている。遠距離砲撃戦は予想されていたが、アメリカ製M777榴弾砲の数が少ないようだ。さらに、ロ軍はその外側から長射程の多連装ロケット砲をバンバン撃ってくるという。砲数と長射程によりロ軍が優勢、ウ軍は囲まれそうだという。

だから、ゼレンスキーはアメリカに多連装ロケット砲を求めている。候補のMLRSという兵器はGPS弾を使うと多連装ロケットというよりも地対地ミサイルに近い兵器になるという。弾を変えると300kmも飛び、ロシア領土へ届いてしまうから供与を米国はためらったという・・・。

また、ロシアに奪われたら大変なことになってしまから最新兵器は送りたくないだろう。例えば、日本はヘルメットと防弾チョッキを提供しており、大したことないと思うが、中国は必ず手に入れると言われる。耐性テストができるからだ。

ヘルソン州での戦闘はロシア軍をおびき寄せるため?

 ウクライナ軍がクリミアの北に位置するヘルソン州北部で攻勢に出たとISWが伝える。図の赤い範囲のままでは2/24以前よりも広く失うことになり、とても停戦交渉にならない。南北朝鮮みたいに分断されるし海路まで経たれる。ヘルソン奪回の動きは東部戦線からロシア軍をおびき寄せる為だろうか?

 以前、ロシアがヘルソン州を編入したら、発電所の電力をウクライナに売って稼ぐという見方があった。おそロシアなら、やりそうだ・・・。

つづく

 

 

2022年5月16日 (月)

専守防衛というハンディキャプ戦争-4

前記事のつづき(ゼレンスキー大統領)

プーチンは大将戦でも負けた

 四月半ば、プーチンはキエフ攻略を諦めて東・南部へ戦力集中を命じたが戦果はでていない。よって、戦勝記念日の演説は西側が騒いだほどの内容は無かった。むしろ驚いたのは、同日のブレジンスキー大統領の演説ビデオの方だった。

支持者に囲まれるでも無く、ひっそりとしたキーウ市内を独りで歩きながら演説していた。足もとに目をやるでもなく、周囲を見るでもなく、ずーっとカメラ目線で歩いて演説した

よく事件現場で、テレビレポーターが歩きながら中継することがあるが、数十秒ほどだったり、視線は現場の方を向いたするものだ。(編集が入っていたとしても)なかなか真似のできないプレゼンであり、この日もリーダー像としてはプーチンの負けだ、と思った。

●ウクライナ軍は兵力が少ないのが弱点

先日、第二の都市ハリキウ(ハリコフ)周辺からロシア軍を追い出したらしい。ウ軍はキーウ防衛戦で勝ち、ロシアが兵を引いたことで、主力部隊をハリキウに集中させた効果だろう。ロ軍は東部と南部にまで戦線を広く展開しているが、ウ軍はそこまで対峙できないから東と南の奪還はゆっくりだ。

マリウポリの製鉄所地下に籠城するアゾフ隊をいつまでも救援できないのは兵力不足のためだろう。一方、ロ軍の作戦の混乱や士気の低さとか命令無視は前から伝えられている。そこで、気になったのは、

●ロシア軍の死者は貧しい地方から来た若者

BBCニュース・ロシア語が伝えるロシア死亡兵の属性分析だ。公式発表や地元メディア報道、SNS、ロシア軍人の親族への聞き取りをもとに2336人の死亡を確認し、名前や階級、所属部隊も分かったという。人数はロ国防省の3月発表の2倍という。

通信面の問題があるためか約二割が将校だという。犠牲者の25%は偵察や襲撃に投入される空挺部隊であった。そして、死者の多くはロシア国内で経済が困窮する地域の出身者であり、モスクワはロシア人口の9%を占めるが、同市出身の死亡は3人しかいないという。つまり、弾の当たる最前線に行くのは貧しい地方出身者というわけだ。

 貧しさと無知が戦争の燃料になり、暖をとるのは都市の人間や既得権益者というのは昔から変わらないが、肝心のモスクワ市民がそれに気づくまでは戦争は終わらないだろう。帰還する棺が増えるのをみてロシア国内から厭戦気分が生まれるしかない、と思っていたら、日曜の毎日新聞Webにトンデモナイ記事がでた。

 ロシアで「クーデター計画進行中」というがソースはウクライナ諜報機関だ。丸でスポーツ新聞並である。

●違和感の多い戦争に見えた理由とは

宣戦布告の無い『戦争』になっている。プーチンが「特別軍事作戦」という名称に拘るのは国内向けだけではなく、戦争じゃないから宣戦布告は必要ないし、戦争犯罪にも該当しないというレトリックなのだろう。

この戦争を見ていて一番、奇異なのは、ロシアはウクライナ領土を好き放題に破壊できるが、ウクライナ軍はロシア領土へ攻め込めないことだ。理由の一つはウクライナはロシアが嫌いでも戦争を仕掛けたいわけでは無いという基本姿勢がある。そしてもう一つは、侵攻したらロシアに核を使う口実を与えてしまうためだ。

この自国領土内でのみ闘うスタイルが専守防衛なのだと、元自衛隊トップが開戦以来語っていた。先日も別な元幹部が語っていた。相手の兵站基地を叩けないから、

ロシアは本土がやられないから何波でも攻めてくる(TBS・BS)

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つまり戦況がロシアに傾けば、キエフを再び攻めることになる。

陸続きの戦争と核の有無という面があるが、専守防衛とはまさしくハンディキャップ戦争である。だから核を使わせないで勝つ方法しかないという難しい戦い方になる。きっと、長期戦に持ち込むしかないのだろう。一気にウ軍が勝とうとするとプーチンに核使用の動機を与えるかもしれない。その辺りは、アメリカが日々観測と分析をしているハズだ。

そして日本は、今まで想定していた専守防衛の本当の姿を見せつけられ、アップデートすべき「現実」に来たのかもしれない。その第一段階が参院選になる。

いよいよ議論を避けるのが通用しなくなってきた。上記の番組は質の高い内容でYouTubeにもある。

つづく

 

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